「連携で支える-4」
最期まで口から食べたい
幅広い訪問歯科の口腔ケア
 持参した専用マイクロモーターで入れ歯の表面を削る。訪問歯科医師の五島朋幸さん(42)が入れ歯を戻しながら「カチカチしてみてください」と言うと、味岡忠夫さん(88)は口を動かして具合を確かめ、失語症の残る不自由な口で「ダイジョーブ」と言いながら指で丸をつくってみせた。
 東京都中野区に住む味岡さんは3年前、脳梗塞(こうそく)のため成田空港で倒れた。毎年出掛けている海外への趣味のスケッチ旅行に出発する矢先だった。
 空港近くの病院に搬送されて命は取りとめたが、右半身にまひが残り、顔の形もゆがんで入れ歯が入らなくなった。それから3週間、ほとんど食べることができず、体重は激減した。
 ところが、都内のリハビリテーション専門病院に移ったのを機に、五島さんが駆けつけ、肩や首筋、ほおをマッサージすると入れ歯はするりと入った。唾液(だえき)やスプーンの先のゼリーをのみ込む練習を重ねて、今ではほとんど何でも食べられる。
 骨のがんで寝たきりになっていた妻が、既に五島さんの訪問診療を受けていたのが縁。妻は昨年1月に亡くなる3日前までおかゆを食べられた。
 娘の石原由美子さん(59)は「先生に教えてもらった保湿剤を口の中に塗ったおかげで、母は食べ続けることができた。最期まで自分の口で食べる。父にもそんな張り合いのある生活を1日でも長く送ってほしい」と願っている。
 五島さんが東京都新宿区を中心に訪問歯科診療を始めたのは約10年前。以来、自転車の前かごに入れたかばんと背負ったリュックに、歯科診療に必要な機器や食べる練習に使うゼリーなどを詰め込んで患者宅を回る。
 歯の清掃や歯石を取り除くだけでなく、かんだり飲み込んだりする機能の回復、食べ物が誤って肺に入ることが原因で起こる肺炎の予防など、歯科医師の口腔(こうくう)ケアは幅広い。ケアを受けている患者の肺炎発症率は、受けていない患者の約半分という調査結果もある。
 五島さんは「食べるのは自分の意思、自然に流れ込むわけではない。食べることは生きることなんです。生涯、食べられる口をつくりたい」と強調する。口からアプローチして生活や人生も支えるサポーターが目標だ。 (2008/01/29)

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