救命進む一方、中絶も
もろ刃の剣の出生前診断
親を支える体制整備を
  妊娠中の超音波検査をきっかけに、胎児の病気が見つかるケースが増えている。技術の進歩で「出生前診断」が赤ちゃんの救命に大きな役割を果たす一方、妊娠中絶や親による治療拒否につながるケースも。専門家は「親を支える体制整備が必要」と訴えている。
 
▽立体画像
 「超音波診断を専門とする医師が画像を見れば、妊娠20週ごろには脳や心臓の異常など、命にかかわる重い病気の大半を見つけることができる」。埼玉医大総合医療センター(埼玉県川越市)母体・胎児部門の馬場一憲教授は言う。
 持病があるなどのハイリスク妊婦を中心に1年で1100件以上の出産を扱い、超音波診断の指導医や専門医がいる同センターには、一般の病院などで胎児の病気が疑われた妊婦が1週間に5―10人、年間数百人紹介されてくる。
 同センターでは通常の断面(断層画像)で見る超音波検査に加え、必要に応じて立体画像でも胎児の様子をチェック。病気を出生前に診断することで、帝王切開の必要性の判断や出産直後の治療準備のほか、病気によっては胎内での治療もできるようになった。
 「以前は助からなかった命が、診断技術の進歩で助けられるようになった」と馬場教授。
 
▽選択的中絶
 東京都内の大学病院では数年前、双子を妊娠した母親が、胎児の1人に染色体異常の可能性を示す所見を指摘され遺伝相談外来を受診。カウンセリングを受けた上で羊水検査をしたが、その後、異常が判明した胎児をほかの医療機関で中絶した。大学病院側には中絶の相談はなく、夫婦だけでの判断だったという。
 大学病院の関係者は「正確な情報を提供し、子供の将来にとって一番よい方法を考えてもらえるようサポートするのがカウンセリングの役割だが、親の自己判断でなされる中絶を止めることまではできない」と話す。
 大阪府立母子保健総合医療センター(大阪府和泉市)の窪田昭男小児外科部長によると、同センターで2006年までの5年間に生まれ、先天性の病気があった赤ちゃんの46%が、出生前に診断されていた。胎内での診断が技術的にほぼ可能と考えられる症例に限ると、75%に上る。
 
▽多職種で対応
 胸部に水がたまり肺の成長を妨げる胎児胸水や、双子が胎盤を共有することで起きる双胎間輸血症候群などは「生まれるまで待っていては手遅れになることもあり、胎内にいる間に治療することが重要」。しかし、妊娠早期に胎児の病気を告げられた親が、十分治療できるケースにもかかわらず中絶したり、出産後に赤ちゃんに必要な治療を拒否するケースに遭遇することもある。
 「親の愛情は胎児の成長とともに少しずつはぐくまれていくが、早期に病気を告げられることで拒否感が生じてしまう。出生前診断は『もろ刃の剣』なんです」と窪田部長は言う。
 信州大准教授で臨床心理士でもある玉井真理子さんは、医師、看護師だけでなく医療ソーシャルワーカーや臨床心理士ら多職種のチームで、親と治療方針を話し合う必要性を訴える。
 「病気が重く治療の効果があるか分からないような場合は治療しない選択があっていいし、一方で救える命なら、親権停止などの法的措置を取ってでも治療すべき場合もあるだろう。さまざまな専門性を持つ人間が話し合いに参加することで、物事の違う側面が見えてくる」(共同通信 若林久展) (2008/01/29)

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