リンパ浮腫で顕微鏡手術
0.3ミリつなぐ超微小外科
バイパス設け症状軽減 


  先天性疾患や事故などで失われた組織や機能を再建する形成外科。日本が世界のトップを走る分野だが、治療対象は日に日に拡大している。最近では1ミリ未満の血管や神経の束への超微小手術も実現。リンパ浮腫の治療にも大きな力を発揮している。

後遺症

 血液と同じように体内を巡るリンパ液は、体の隅々に栄養分や免疫物質を届け、老廃物を回収している。その循環が滞ると、リンパ液が末端にたまり、むくみを生じる。これがリンパ浮腫だ。
 生まれつきリンパ管が少ない先天性と、思春期以降に起きる原因不明の特発性、手術の後遺症で起きる2次性がある。
 特にがんの手術では、転移を防ぐ目的でリンパ節を除去することが多いため、リンパ液の循環が損なわれ、浮腫が起きやすい。乳がんでは腕、子宮がんや前立腺がんなどでは脚に起きる。
 命には直接かかわらないが、ひどい場合は象の脚のように腫れ上がり、生活の質がひどく落ちる。従来はマッサージでリンパ液を吸収させ、弾性ストッキングなどで圧迫する治療が主体だが、進行を遅らせるだけで、根治療法ではなかった。

マイクロサイズ

 これに対し、東京大病院形成外科の光嶋勲教授が行っているのが、先が行き止まりとなったリンパ管と静脈を結ぶバイパス手術だ。
 ただリンパ管の直径は0.3ミリと極めて細い。「なるべく健康なリンパ管を見つけ、同じ太さの静脈に結ぶのが重要」と光嶋教授。
 当然、手術器具も超微小で、針は髪の毛の半分の太さの50マイクロメートル(マイクロは100万分の1)、ナイロン糸は20マイクロメートル。普通の形成外科で使う針や糸の半分の太さ。鼻息で飛ばすともう見つからない。手術には倍率20―30倍の顕微鏡を使う。
 手術は局部麻酔ですみ、脚なら2、3カ所のバイパスを作るのが一般的。2人がかりで平均3時間程度かかる。
 現在は数日の入院で行っているが「将来は日帰り手術も可能だろう」と光嶋教授。保険も適用され、患者は全国から集まる。手術できるのは週に2人なので、半年待ちも珍しくないという。


発症予防を

 光嶋教授がこの手術を最初に手がけたのは、川崎医大(岡山)にいた1990年。乳がん手術で腕に浮腫が出た女性だったが「発症から間がなかったため、2カ所のバイパスで劇的な効果が出た」と振り返る。
 リンパ浮腫ではかつて、肉眼で血管とリンパ管をつなげる手術が試みられたが、効果はなかった。当時は直径5ミリ程度の太い静脈に細いリンパ管をつないだため、双方の圧力差でリンパ液がうまく血管に流れなかった。
 光嶋教授は「顕微鏡を使って細かく、完全につなぐ今の手術は、まったくの別物」と強調する。リンパ管がまだ健康な発症早期ほど効果は高いが、リンパ管が傷んでいても、手術の後に圧迫療法を併用すれば効果は期待できるという。
 がん治療後のリンパ浮腫は、かつては「命が助かった代償」として放置されるケースが多かった。今でも「治療法はない」と説明されている患者も少なくないという。
 「家族の理解が得られず離婚したり、生活保護を受けたりする女性も珍しくない。男性では仕事に影響する。手術でリンパ節を除去する際、バイパスを組み合わせれば、手術によるリンパ浮腫は予防できる可能性がある」と光嶋教授は話している。







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