広がる低髄液圧症候群治療
自己血で漏れにふたを
交通事故などでも発症

  脳と脊髄(せきずい)を覆う脳脊髄液の圧力が低下する「低髄液圧症候群」。頭痛や目まい、集中力低下など、さまざまな症状が現れるが、非常にまれな病気とされていた。しかし、交通事故などでも起きることが分かり、患者自身の血液を使うブラッドパッチという治療を行う医療機関が増えている。 この治療の普及に主導的役割を果たした国際医療福祉大熱海病院の篠永正道(しのなが・まさみち)教授(脳神経外科)は「原因不明の体調不良が続いているなら、最寄りの病院で脳の磁気共鳴画像装置(MRI)検査を」と呼び掛けている。
 ▽多様な症状
 篠永教授は神奈川県の平塚共済病院に勤務していた2000年ごろ、エックス線検査で異常がないにもかかわらず、普通は1カ月程度で治る頸椎(けいつい)ねんざ(むち打ち症)に長く苦しむ患者の症状が、低髄液圧症候群に似ていることに気付いた。
 調べてみると髄液が減っており、脊髄から神経が出ている「神経根」という部分から漏れている患者が多かった。
 症状は頭や首、手足などの痛み、聴力や視力、味覚の障害などの脳神経症状、血圧障害や胃腸障害などの自律神経症状、記憶力低下や不眠、うつなどの大脳機能障害、倦怠(けんたい)感など多岐にわたり、現れ方もさまざま。
 ただ同症候群は軽い交通事故では起きないと考えられていたため、心因性とされたり、ひどい場合は「保険金目当て」とされたという。
 ▽原因もさまざま
 「髄液が減ると、そこに浮かぶ脳が下がる。これが多様な症状を引き起こす原因とみられる。髄液の圧力低下ではなく、量の減少が問題で、むしろ『脳脊髄液減少症』と呼ぶべきだ」と篠永教授。髄液を血液で補うため静脈が太くなり、かえって脳内の血流が滞ることも原因とみている。
 実際、患者の多くは横になると症状が軽くなるが、これは脳が下がらなくなるため。脱水も髄液生産が減るため、悪化要因だ。スポーツや転倒、さらには出産で起こすことも。「出産時のいきみは体への大変な負担になる。マタニティーブルーとされた人にもいるはず」と篠永教授は話す。
 ▽研究会も設置
 2―3週間入院し、十分な水分摂取をしても改善しなければブラッドパッチを行う。腰椎(ようつい)の硬膜の外に、患者の静脈から採取した新鮮な血液を男性では30―40cc、女性は20―30cc注射する。2、3日は水分補給の輸液を点滴、2週間は過激な運動を避ける。  血液は脊髄を覆う一番外側の硬膜と背骨の間の脂肪組織を伝わって広がって固まり、漏れた部分をふさぐ。血液は1週間で溶けるが、血中の線維成分が残り、これを足場に徐々に修復される。必要なら、2カ月ほど間隔を置いて繰り返す。  ブラッドパッチは、髄液を抜き取って調べる検査の後に起きる頭痛の治療で麻酔医が以前から行っており、技術的に難しくはない。  篠永教授はこれまで約七百五十人にブラッドパッチを実施、うち15%が一回で効果があった。平均の治療回数は二・六回。症状が一時悪化することもあり、効果が出るまでの期間や回数にも個人差がある。また30%には効果がなく、数%ながら逆に症状が悪化した例もあるという。原因は不明だ。  篠永教授は「この原因を解明する必要がある。また回復しても元の80%程度。その意味でブラッドパッチは完全ではないが、今はほかに治療法がないのが現状」と話す。新たな治療法の確立を目指し、昨年、医師による研究会を設置。治療ガイドラインの策定も進めている。


ヘッドラインへ戻る

記事、写真、グラフィックスの無断転載を禁じます。
2005 Kyodo News (c) Established 1945 All Rights Reserved