遺伝子診断に揺れる心
発症確率50%、治療法なし
ハンチントン病
  さまざまな病気の原因遺伝子が発見され、治療法のない遺伝病でも発症の可能性も知ることができるようになった。遺伝病の代表例として取り上げられることの多いハンチントン病は、親が患者なら子の発症確率は50%。遺伝子診断を受けて自分の運命と向き合うべきかどうか、心が揺れ動く人がいる。
 
▽病気を封印
 ハンチントン病は、脳深部の線条体という部分にある細胞が失われることで、意志とは関係なく体が動く不随意運動や、知能低下、抑うつ状態などが起きる神経難病。
 多くは中年期に発症し、患者や家族らでつくる日本ハンチントン病ネットワーク(JHDN)によると国内の患者は約800人。根本的な治療法はなく、長い時間をかけて症状が進行、ほとんどは寝たきりとなり肺炎などの合併症で死亡する。
 同ネット代表の中井伴子さん(43)=大阪府在住=がハンチントン病を知ったのは20歳。症状が進んでいた母親(72)の主治医から病名を聞き、遺伝病だと分かったときの衝撃は「ものすごかった」と振り返る。
 両親のいずれかがハンチントン病であれば、50%の確率で原因遺伝子を受け継ぎ、もし受け継いでいれば必ず発症する。
 母親の兄弟やその息子の中には、発症し他界した人もいる。「結婚もあきらめて、病気のことを封印していた時期もあった」と中井さんは話す。
 
▽受診は76%
 4番染色体上にある原因遺伝子が特定されたのは1993年。この遺伝子には、CAGという3塩基の繰り返し配列があり、ハンチントン病では繰り返し回数が異常に多い。遺伝子診断でこの回数を調べることで、発症予測が可能になった。
 千葉大病院では、診断の相談などに当たる遺伝カウンセリング室を2003年に開設した。相談件数は年々増え、06年は80件。ハンチントン病を含む神経・筋疾患が半数を占める。
 すべての症例にかかわる宇津野恵美遺伝カウンセラーは「あくまで判断材料を提供する側で、診断に進むかどうかは当事者に委ねる」と話す。
 神経・筋疾患のクライアント(依頼人)の約76%が訪問の目的を「遺伝子診断を受けるため」と回答しているが、実際に受けたのは、そのうちの約76%だった。
 臨床遺伝専門医の石井拓磨医師は「家族の状況など事情はそれぞれ違う。診断を行うべきかどうかの正しい答えは、誰も持っていない」と言う。
 
▽重要なサポート
 中井さんは現在、母親の介護の傍ら、ネットの運営に奔走している。だが自らの受診については日々、心が揺れている。
 「結果を知っても『わたしだったら病気と向き合えるから大丈夫』と思うときもあれば『絶対に無理』と思うことも。決まった精神状態はないが、結果を聞いてしまったら取り返しがつかないから、まだ知りたくない」
 診断を受けた会員の中には、発症を予告されたショックや、逆に陰性と分かった解放感などで連絡が途絶える人もいる。
 将来設計を左右する遺伝子診断。それだけに、専門知識を持ち心理的なサポートもする医師やカウンセラーの存在は欠かせない。石井医師は「診断を受けた方には、いつでも連絡してもらえるような温かい距離感を保つよう心掛けている」。中井さんも「1人で抱え込まずにいられるよう、各地で相談会などを開きたい」と語る。
 同ネットの連絡先は、郵便番号108―8639、東京都港区白金台4ノ6ノ1、東大医科学研究所ヒトゲノム解析センター309号室、JHDN事務局。メールアドレスはjhd@mbd.nifty.com(共同通信 佐分利幸恵) (2007/12/18)

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