医師主導治験で初の承認
麻酔用鎮痛薬フェンタニル
小児への適応拡大で
 医薬品の臨床試験(治験)を医師が中心になって実施する医師主導治験で、麻酔用鎮痛薬「フェンタニル注射液」(一般名フェンタニルクエン酸塩)の小児への適応拡大が、8月に承認された。4年前に導入されたこの制度による初の承認。必要な薬が世に出る機会が増えると期待されるが、医師の負担が予想外に重いなどの課題も明らかになった。


▽企業に代わり
 治験の取りまとめ役(調整医師)を務めた国立成育医療センターの中村秀文治験管理室長によると、フェンタニルは全身麻酔の際に麻酔薬の補助として、海外では小児にも広く使われる標準薬。国内では小児への安全性が確認されていなかったため、2歳以下は禁忌とされていたが、必要性が高く「小児に適応外使用されている実態があった」という。
 治験は健康な人や患者で薬の安全性、有効性を確かめるもので、通常は製薬会社が医療施設に依頼して行う。しかし、億単位の費用がかかるため、患者が少ない希少疾病や小児への適応拡大は「採算が取れない」などの理由で会社側が消極的。医師の責任で大人用の薬を小児に使うことも可能だが「副作用が出た場合、国の被害救済制度が適用されない可能性がある」(中村室長)などの問題があった。
 「緊急性の高い薬を安全に使いたい」と医師や患者から要望が相次ぎ、厚生労働省が薬事法改正で2003年に導入したのが医師主導治験だ。


▽6施設103人
  フェンタニルの治験は、成育医療センター、東京大、北里大、大阪府立母子保健総合医療センター、神戸大、国立病院機構岡山医療センターの6施設で05年2 ―12月、新生児を含む6歳以下の103人に実施。得られたデータを基に06年9月、三共(当時)が適応拡大を申請した。
 中村室長は医薬品の承認審査に当たった経験もあるが、医師主導治験は「進めるうちに次々に問題点が出てきた」と振り返る。
 大変だったのは事務処理。膨大なデータの管理は民間業者に委託したが、計画を修正する度に書類を各実施施設や関係先に送るなど、通常の治験なら製薬会社が担当する業務の負担は重かった。
 麻酔科医だけでなく外科医や術後管理担当の看護師とも十分な連携が必要で、手術中には患者の全身状態を監視しながら分単位でデータを取るなど、麻酔薬ならではの苦労もあったという。


▽環境整備にも
 膨大な費用とノウハウが必要な医師主導治験を支援するため、厚労省は03年、科学研究費補助金で日本医師会治験促進センターを設置した。
 センターの小林史明研究事業部長によると、治験の申請があると外部委員会で、医療現場のニーズがあるか、実施可能か、製薬会社の意向はどうか、などを中心に評価する。採択が決まると、書類の書き方や省令解釈のアドバイス、製薬会社との橋渡しなどに当たる。
 これまでにフェンタニルを含む13種類が採択され、新型インフルエンザ用ワクチンは年内にも承認の見通し。採択されても効果が得られなかったなどの理由で中止になった薬も2種類あるが、小林部長は「医師主導治験が可能なことが、今回実証された。難しいと尻込みしないでほしい」。
 また「通常の治験を実施する環境の整備にも役立っている。従来は、医師がやるべき書類作成も製薬会社任せにすることが多かったが、医師主導治験が進むにつれ、自分たちの仕事という意識を持つ医師が増えた」と話している。(共同通信 影井広美)(2007/10/02)

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