共感しコミュニケーション
認知症の接し方に新手法
米国のバリデーション
 認知症の人の言動をどう理解し接すればよいのか、さまざまな心構えや対処法を分かりやすく示した「バリデーション」という米国生まれのコミュニケーション法が注目されている。言動に共感することを基本としており、国内の介護現場でも導入が始まっている。

▽8つの原則
 バリデーションは、アルツハイマー病など認知症のお年寄りに向き合う際の体系的な手法として、米国のソーシャルワーカー、ナオミ・フェイルさんが1980年代に開発した。
 認知症の人の言動を問題視したり説得してやめさせようとしたりするのではなく、行いを理解しようとし、あるがままに受け入れるといった共感に基づくかかわり方が基本。家族や介護者が悩むことが多い、認知症の人とのコミュニケーションをとれるようにするのが目標だ。
 実施に当たっては①混乱した行動の裏には必ず理由がある②認知症であっても人間として貴重な価値ある存在である③人生でやり残した心の中の課題が問題行動として浮かび上がる―など心得ておくべき8つの原則がある。
 バリデーションを取り入れている岡山県笠岡市の「きのこ老人保健施設」の篠崎人理施設長は「赤ちゃんが泣くと、おむつがぬれたのか、熱があるのか、と一生懸命考える。それと同じです」と説明する。

▽感情の波に乗る
   同施設でバリデーションの実際を見た。
   習い始めて4年になる職員三宅裕美さん(30)が、ベッドに腰掛けた認知症の女性(86)の目をしっかりと見つめた。「勉強しようと思ったら、自分の程度を学んでいかないといけない」などと話す女性に「分かることは楽しいですか」と問い掛ける。
   女性「先生が甘やかしてくれたと思う」
   ―勉強するというのは、どういうことですか。  女性「知らないことを覚えるのは、人間として正しいことです」
   意味をつかみにくい内容や繰り返しが目立つ女性の話を受け止め、時にはほほ笑み合う。三宅さんは「話が本当かどうかにかかわらず、お年寄りの現実に合わせ、感情の波に乗ることを心掛けています」と言う。
   接する際の具体的な手法は14。まず、呼吸を整えてイライラした感情をなくし、精神を集中させる。認知症の人は自分が言ったことが確認されると安心するので、同じ言葉を同じような調子で繰り返してみる。意味が分からない言葉に対しては「それ」などあいまいな表現で質問。
   相手に合わせて体を動かしたり、思い出話をしたり。言葉を失っても、幼いころの歌などは覚えている場合があるため、音楽も用いてみる。

  ▽家族の介護にも
  これらを病状の重さに応じて使い分け、悪化防止や尊厳の回復につなげる。主眼は、思いを聞いてほしい、愛されたい、誰かの役に立ちたいという、人間が持つ要求をかなえることだという。  日本へ本格導入されたのは2001年。篠崎さんと高橋誠一東北福祉大教授(高齢者福祉)らが、フェイルさんの著書を翻訳したのがきっかけだった。
 高橋教授は「認知症患者とどうかかわったらいいのか、体系的な方策が国内になかった。患者が増えるに伴って、その必要性が急速に高まってきた」と振り返る。
 高齢化により患者はさらに増加するとみられ、篠崎さんは「自宅で認知症の家族を介護している人らにも、バリデーションをぜひ知ってほしい。生活のいろいろな場面で助けられることもあると思う」と話している。(共同通信 谷本敏之) (2007/7/17)

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