|
栄養吸収を担い、消化管で最も重要な臓器とされる小腸。口や肛門(こうもん)から遠く自由に動く上、長く曲がりくねっているため内視鏡による精密検査が難しかったが、ユニークな発想で小腸全域への挿入を可能にした「ダブルバルーン内視鏡」が日本で開発され、世界に広がっている。欧米を中心に普及しているカプセル内視鏡の弱点を補う検査、治療法として期待されている。
▽暗黒の臓器
「小腸は食道や胃、大腸などの消化管の中でも、栄養の吸収を一手に引き受けている一番大事な臓器。だが内視鏡検査がほとんどできなかったため『暗黒の臓器』と言われていた」
ダブルバルーン内視鏡を開発した自治医大消化器内科の山本博徳(やまもと・ひろのり)講師はこう話し、「これまで小腸の病気は少ないとされてきたが、内視鏡検査の実現で、実は結構病気があることが分かってきた」と説明する。
小腸は胃と大腸の間にあり、長さは6、7メートル。胃や大腸は所々でおなかの内側に固定されているが、小腸は伸び縮みする軟らかいチューブがただ詰め込まれたような構造で、かなり自由に動く。
このため、通常の内視鏡を小腸に挿入しようとしても、腸管が一緒に伸びてしまったり、急カーブを通過できなかったりして、奥まで検査することが難しかった。
小腸の病気は粘膜に炎症やかいようを起こす原因不明の難病クローン病など、欧米人に多いが、食生活の変化に伴い、国内でも患者数は増加している。しかし小腸内視鏡はこの30年ほどあまり進歩していなかったという。
▽尺取り虫方式
このような中、山本講師が考案したのは、内視鏡をチューブの内側に通して二重構造にし、内視鏡とチューブを尺取り虫のように交互に進ませる方法。内視鏡とチューブの先端にはそれぞれ風船状のバルーンを付け、空気を入れて膨らませると腸管の内壁に密着して固定できるようにした。
従来の内視鏡は「挿入するための力が腸管を伸ばすのに使われてしまっていた」(山本講師)が、腸管に固定しながら少しずつ進ませることで腸管が伸びず、奥まで挿入できるようになった。
また先端を腸管に固定して内視鏡とチューブを手前に引くと、内視鏡が入っている部分の小腸は縮み、先の部分はまっすぐになるので、内視鏡を進めやすくなる。これを繰り返して検査することで、小腸全体をわずか長さ約2メートルの内視鏡でカバーできるという。
▽治療も可能
ダブルバルーン内視鏡を販売するフジノン東芝ESシステム(東京)によると、現在、国内約150、ヨーロッパ約100、米国約50施設で使われている。
欧米では患者に薬のようにのみ込ませて観察するカプセル内視鏡が先に普及し、日本でも臨床試験が進められている。患者の負担は小さいが、腸の蠕動(ぜんどう)運動で移動しながら撮影するため、異常が見つかっても詳しい検査や治療はできない。
一方、ダブルバルーン内視鏡は通常の内視鏡と同様、病変部を詳しく検査できる上、組織の採取や止血、ポリープの切除、閉塞(へいそく)部分の拡張などの治療も可能だ。
検査は鎮静剤を使うが全身麻酔は不要。肛門側からと口側からに分けて調べることが多く、計1―2時間程度かかる。
「カプセル内視鏡はスクリーニング、ダブルバルーン内視鏡は精密検査や治療に適している。2つの方法ができて小腸の診断、治療は飛躍的に進歩した」と山本講師は話している。
|