脳に電極埋め聴覚回復
聴神経腫瘍患者で改善も
東京医療センター
   聴神経に腫瘍(しゅよう)ができて耳が聞こえなくなった人の脳に電極を埋め込み、音声の信号を直接伝えて聴覚の回復につなげる治療に、国立病院機構東京医療センター(東京都目黒区)の加我君孝感覚器センター長らが取り組んでいる。国内では臨床研究の段階だが、海外では数百例の実施報告があり、改善が見られているという。
▽聴神経が寸断
  耳から入った音は、鼓膜を振動させた後、カタツムリのような形をした蝸牛(かぎゅう)に伝わる。ここで、それぞれの音や言葉に応じた電気信号に変換され、聴神経を伝って脳に到達、音として認識される。
 ところが神経線維腫症2型という病気では、両側の聴神経に良性の腫瘍ができ、多くは聴神経が機能しなくなる。
 加我センター長は「腫瘍を放置すると脳を圧迫し、命が危ないこともあるので摘出が必要になるが、そのまま聴覚を失うケースがほとんどです」と話す。
 厚生労働省の難病に指定されており、発症は10代―20十代が中心で、罹患(りかん)率は約4万人に1人。ほかの神経にも腫瘍ができ、しびれやまひ、視力障害が起きることもある。
 難聴の治療では、蝸牛に電極を挿入し、音声を電気信号に変えて伝達する人工内耳が有効だが、その先の聴神経が寸断された神経線維腫症2型では効果が望めない。

 ▽90%に聴覚反応も
    そこで1970年代後半以降、海外で開発が進んできたのが聴覚脳幹インプラント(ABI)で、生命維持のさまざまな働きや意識をつかさどる脳幹に信号を直接伝えるものだ。
 補聴器のような装置を耳に掛け、内蔵されたマイクで拾った音声を電気信号に変換。信号は、頭につけた体外送信装置から、頭皮と頭蓋(ずがい)骨の間に入れた受信装置に送られ、コードを経由して電極から脳幹に伝わる。体内への信号送信には電磁誘導という方式が用いられており、体内の受信装置に電池はいらない。
 電極は、腫瘍の摘出後、脳幹の表面に一カ所埋め込む。最適の場所に埋めることが重要で、手術では電気刺激を加え反応を見ながら位置を決める。手術後は、読唇術の訓練をし、術後の状態が落ち着く約2カ月後から装置を起動させる。
 欧州のデータでは、約90%で音が聞こえるようになり、読唇術を併用して言葉が分かるようになったのは80―90%。ただ併用しないと、文章としての理解は10―44%にとどまった。
  ▽読唇術を併用
  加我センター長は今年3月まで勤めた東京大病院で、2004年7月に初めて実施、これまで3人に行い2人が装置を使っている。
 1例目の40代男性は、50音の単音は聴覚だけだと5%しか認知できなかったが、読唇術を併用すると55%に。
 30代男性では同じく20%と70%。単語は24%と64%で、短文だと同8%と82%と改善。手足や表情が勝手に動いたり、顔に痛みが出たりするなどの問題が生じることもあるが、これまで起きていないという。
 「限界はあるが、聴神経が損なわれてまったく聞こえなくなった人でも、会話も夢ではない」と加我センター長。
 今後は、都内の民間病院と共同でABIを進める。保険がきかず、装置や手術、入院費などで数百万円かかるため、患者の負担軽減につながる「先進医療」の適用を厚労省に求めることも検討している。(共同通信 谷本敏之)(2007/5/8)

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