診療能力高める仕組みを
無過失補償制度
現役教授、小説で提言
深刻化する産科医の不足。その要因は、厳しい労働環境や、患者側からの損害賠償請求の増加にあると指摘し「無過失補償制度」の必要性を訴える小説を、岡井崇・
昭和大
教授(産婦人科)が出版した。この制度は国も検討しているが、日本産科婦人科学会常務理事でもある岡井教授は「医療事故防止には、診療能力を高める仕組みが不可欠」と強調している。
▽悔し涙
大学病院に勤める産科医、柊奈智は当直の夜、容体が急変した妊婦の帝王切開手術を行う。何とか乗り切ったものの、出産を終えた母親は3日後に腹腔(ふくくう)内出血を起こし、死亡。遺族が賠償を求めて提訴し、柊は病院を去る決意を固めるが―
早川書房から刊行された小説のタイトルは、無過失を意味する「ノーフォールト」(440ページ、1680円)。緊迫した手術の様子や先輩医師とのやりとりなど、リアリティーあふれる表現が目を引く。だが、岡井教授は「日記もつけたことがない」。小説を書こうと思ったのは2003年秋だったという。
「新人医師を産婦人科に勧誘する席で人員不足を訴えているうちに、口惜しさがこみ上げ号泣した。産科医不足は、過酷な労働とそれを敬遠する学生気質が原因で、訴訟の多さが追い打ちをかけている。社会の理解を得なければと考えた」
1年間構想を練り、05年の正月から休日を使って秋にほぼ完成。友人や親類の批評を基に手直しして出版に至った。
▽過失なくても
日弁連は医療事故の被害者の願いとして、原状回復、真相究明、反省・謝罪、再発防止、損害賠償の5つを挙げる。
民事訴訟では、医師の過失を患者側が立証しなければならない上「被告側に立たされると医師も都合の悪いことは言わない」(岡井教授)ので、患者側が賠償を受けられず、真相究明ができない恐れもある。
そこで北欧などが導入しているのが、医師の過失の有無にかかわらず患者側に補償金を支払う無過失補償制度だ。支給審査や事故原因の調査・分析は制度運営組織が当たる。日本では分娩(ぶんべん)で脳性まひの赤ちゃんが生まれたケースを対象に、厚生労働省と日本医療機能評価機構が検討を始めた。
ただ、医師を処罰し反省を促す仕組みが伴わないと、医師にとっては単に訴訟を避けられる都合がいい制度に終わり、再発防止につながらないことになる。
▽動機づけ
岡井教授は再発防止策の一つとして、学会ごとに認定している専門医制度の活用を提唱する。
「難しい診療行為は専門医の資格がないとできないようにする。医療事故を起こし、重い過失があるか、診療能力が著しく劣っていると認定されたら、資格を停止して能力向上の勉強をさせる。そうすれば安全な医療を心掛けるインセンティブ(動機づけ)になる」
怠慢だったり悪意のある診療を行ったりする医師には無過失補償制度が適用されず、場合によっては刑事罰の対象となることが前提だ。 学会に加入していない医師はどうするかなどの課題もあるが、再発防止の具体策として注目されている。
岡井教授は「小説で、患者と医師に大事な心のつながりが薄れてきているということを訴えたかった。多くの患者さんに読んでほしい」と話している。
岡井教授は1947年、和歌山県生まれ。東京大医学部を卒業後、同大助教授、愛育病院(東京)副院長をへて2000年4月から現職。(共同通信 影井広美)(2007/5/1)+ font>
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