鼻粘膜で脊髄機能改善
損傷部に移植し神経再生
阪大、年内にも臨床研究
   交通事故などで損傷した脊髄(せきずい)に本人の鼻の嗅(きゅう)粘膜を移植し、運動や感覚機能の改善を狙う臨床研究を、大阪大病院(大阪府吹田市)脳神経外科が年内にも始める。嗅粘膜に含まれる神経が再生能力を持つことを利用、海外では回復傾向が見られているという。
▽リハビリに限界
  手足など体を動かそうとする脳からの指令は、脊髄の中の神経線維を通って手や足などの各部に伝わる。一方、痛みや熱さといった感覚も、この神経線維を経由して脳に届く。
 主任研究者の吉峰俊樹教授は「脊髄は脳から続く中枢神経で、脳と体の間で信号を伝える電線が束ねられたものと言える。全身にある細い末梢(まっしょう)神経とは異なり、増殖や伸長をしないため、壊れると非常に再生しにくい」と治療の難しさを説明する。
 スポーツや事故で背骨が折れたりずれたりすると、中を通る脊髄も傷み、体の動きだけでなく排尿や呼吸ができなくなることもある。主な治療法はリハビリテーションだが、効果に限界があるのが現状という。
 そこで注目されているのが、鼻の奥の嗅粘膜にあり、においをつかさどる嗅神経。中枢神経なのに再生能力があるのが特徴で、嗅粘膜を脊髄の損傷部位に移植し回復につなげる医療をポルトガルの国立病院が2000年代に開始、大阪大もこの方法を用いる。
 ▽海外で127人
  手術ではまず背中を切開し、脊髄の損傷部位を出す。ここに、片方の鼻から内視鏡で摘出した2―3センチ角の嗅粘膜を、細かく切った上で詰め込むように移植、神経の再生を待つ。嗅粘膜が足りなければ、もう一方の鼻からもとる。
 同脳神経外科によると、昨年9月にイタリアで開かれた国際会議での経過報告では、実施されたのはポルトガル101人、コロンビア14人、ギリシャ7人など計127人。運動機能の改善傾向が見られ、歩行器や人の助けで歩く練習ができるまでになった人がいるが、足の装具を使い自立歩行できるようになったのは子供1人という。
 「体温や脈拍などの自律神経系や、感覚の改善も若干見られる。ただ、自立歩行は難しく、機能回復はわずかだと言わざるを得ない」(同科)。
 自分での排尿が困難になったり、痛みが出たり、髄液の漏れや髄膜炎、鼻の感染症が起きたケースもあった。嗅覚は一時鈍るが、嗅粘膜は再生するため通常は数カ月以内に回復するという。
  ▽効果は未知数
 大阪大病院では、5年で40人に実施する計画で、今年1月から患者の登録を始めた。
 対象は、両足が完全にまひした患者で①自然に治る可能性がある急性期を過ぎ損傷から半年以上たっている②損傷部は3センチ以下③年齢は7歳以上、嗅粘膜が減る前の40歳まで―などが条件。手術後のリハビリは入院して半年―1年、その後も2―3年続けてもらう。
 研究グループの岩月幸一講師は「国内での有効性や安全性を確認する初めての臨床研究で、治療法の開発を目指すもの」と言う。嗅粘膜の移植後に、神経線維を伸ばす作用が期待される薬剤の臨床研究も進める。
患者や家族でつくる
日本せきずい基金の渡部基之理事は「可能性のある治療法かどうか、まだ分からない段階。すぐに効果が出るわけではないことを、よく理解しておいてほしい」と話している。同脳神経外科の連絡先は電話06(6879)3652。(共同通信 谷本敏之)

トップページへ戻る

記事、写真、グラフィックスの無断転載を禁じます。
2003 Kyodo News (c) Established 1945 All Rights Reserved