ぼけの始まり確実に診断
タウタンパク質の検査で
アルツハイマー病
 「アルツハイマー病のぼけが始まったのでは?」―。物忘れが多いことに自分で気付き、こんな悩みを抱いて受診する年配者が少なくないらしい。「大学病院への受診動機が少しずつ変わってきており、発病早期の患者さんが多くなっている」と東北大病院老年・呼吸器内科の荒井啓行助教授。「治療薬が実際に開発されたことが大きい。早期であるほど効果があるわけで、もし病気が始まっていたら“早く薬をのみたい”という人が多い」と話す。
▽バイオマーカー
 アルツハイマー病は初期段階の的確な診断がなかなか難しいところに問題がある。同病院では、確実に診断できる方法として、脳脊髄(せきずい)液中の「タウ」と呼ばれるタンパク質の測定を進めてきた。
 「この病気の診断のためにさまざまな試みがされてきたが、残ったのはタウだけ。世界でただ一つ認められたバイオマーカー(生体指標)だ」(同助教授)
 アルツハイマー病患者の脳では、まず毒性を持つ「ベータアミロイド」というタンパク質が細胞の外に沈着を始める。この蓄積が10―20年続くと、神経細胞内にある微小管と呼ばれる構造が変化を起こして神経細胞が死ぬ結果、ぼけが始まることが分かっている。
 この時、微小管を構成するタウも変化し、細胞死が起こるとともに細胞の外に漏れてくる。
 脳脊髄液中のタウの量が上がってくれば、アルツハイマー病が発病していることが分かる。検査は15分ぐらいで可能。
▽見極め可能
 脳脊髄液中のタウの量を測ると、正常な人では1ml中、320―330ピコグラム(ピコは1兆分の1)だが、アルツハイマー病の初期では400―500ピコグラム。中期以降では600ピコグラム以上になる。
 47歳で受診した男性の場合、父親や祖母などが痴ほうで亡くなっており、44歳ごろから物忘れが始まったという。
 記憶力などの認知機能を見るテストでは正常範囲と判定。MRI(磁気共鳴画像装置)でも脳に委縮などはなかったが、脳の活動状態を見るPET(陽電子放射断層撮影)で、脳の中央に近い部分の機能が落ちていることが分かった。
 脳脊髄液中のタウを見ると632。脳の神経細胞死がかなり進んでいると推定された。
 症状はその後徐々に進行し、3年半後の今年になると、日時の感覚や自分の年齢も怪しくなってきた。MRIでも委縮が分かるようになった。
 「物忘れは人によって進行せずに止まることもあれば、そのまま落ち続ける人もいるので見極める必要がある。進行するかどうか、タウで90%見極めが可能。危なければ、その段階で治療を始める」と荒井助教授。
▽漢方薬を併用
 アルツハイマー病の治療薬「塩酸ドネペジル」(商品名アリセプト)は、1年間ぐらいは効果があり、認知機能を低下させない。「重症化していても、ある程度は効く」(同助教授)。
 東北大老年科では、治療はアリセプトと「加味温胆湯」などの漢方薬を併用している。アリセプトと漢方薬は認知機能を維持する上で相乗効果をもたらすようだ。
 荒井助教授は「度忘れなど、ほとんどの物忘れは怖くない。アルツハイマー病は数時間から数日前の記憶がすっぽり抜け落ちてしまうのが特徴。今日の午前中に何をしたか覚えていないとか、昨日の夕食が何だったか覚えていないとか、自分の生活の記憶が失われるケースが怖い」と話している。
 タウの検査は岡山大、三重大、鳥取大の各神経内科でもできるという。



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