難治性気胸に内視鏡治療
シリコーンで気管支に栓
8割近い患者で効果


  内視鏡でシリコーンの栓を気管支に詰める気管支充てん術が、難治性気胸の新しい治療法として注目されている。開発した岡山赤十字病院の渡辺洋一(わたなべ・よういち)・呼吸器内科部長は「治療法がなかった患者の多くをこの方法で助けられる」と話している。

打つ手なし

 気胸は肺に穴が開いて空気が胸腔(きょうくう)内に漏れる病気。胸腔内にたまった空気で肺が十分広がらず、呼吸困難になるほか、胸痛も起きる。やせた若い男性に起こる傾向が強いが、高齢者にも発症のピークがある。
 若い患者の場合は肺の表面に小さな袋ができ、そこが破れることが多い。症状によって治療法は異なるが、破れた個所を手術で縫い閉じればほとんどが治る。
 しかし高齢者の場合は条件が厳しい。「喫煙による慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)などのため肺全体がもろくなり、中でも弱いところが破れる」と渡辺部長。手術でふさぐのが難しく、空気漏れが続くことが多くなる。
 こういう場合は胸腔に管を挿入し、肺から漏れた空気を吸引。肺が広がって穴が自然に閉じるのを待ったり、胸腔のすき間を薬で癒着させ、漏れを止める。
 多くはこれで治るが「どうしても助けられない難治性の患者もいる」と渡辺部長。空気漏れが激しいと管を入れても肺が広がらず癒着術を行えない。吸引を長い間続けると、肺炎を起こしたり、もう一方の肺に穴が開いてしまうこともある。


タブーに挑戦

 喫煙率が高い日本ではCOPD患者が増加、それに伴い、難治性気胸も増えている。
 開発のきっかけは、1989年に渡辺部長らが診た難治性気胸の40代女性。糖尿病に敗血症を合併し、腎膿瘍(のうよう)や肺炎を起こしていた。抗真菌剤を投与しても症状は悪化し呼吸不全状態に。肺と腎臓の間が侵されて穴でつながり、肺の空気が腎臓の穴から漏れる状態だった。
 もう打つ手がないとあきらめかけたときに挑んだのが気管支充てん術。
 「医療用の綿などを詰める方法は一時試みられたが、異物を詰めることは当時、全くのタブー。でも、そうでもしないと助からない状態だった」と渡辺部長。最もトラブルが起きそうもない材料を探し、たどり着いたのが歯科で歯型を取るのに使うシリコーンだった。 気管支にシリコーンの栓を詰めると空気漏れは見事に止まって肺炎が改善。〝異物〟を詰めることによるトラブルもなかった。女性は全身状態も良くなり、手術と薬物療法で回復、無事退院した。


フランスで製品化

 処置時間は患者によって違うが15―50分程度。細かく枝分かれした気管支から、漏れの原因となっている枝を探し出し、直径5、6ミリ、長さ1センチ程度の栓を口から入れた気管支鏡で詰める。手術と違い、患者の身体への負担は少ない。
 現在、国内では大学病院など約80施設で行われており、8割近い患者で空気漏れが完全に止まるなどの効果が挙がっているという。
 国内の医療器具メーカーに製品化を持ちかけたが、費用などを理由に断られ、フランスのメーカーと製品化した。製品名「EWS」のWは渡辺部長の頭文字。まだ輸入承認が得られていないため、医師の個人輸入で使われている。施設によっては自分で作っているところもあるという。
 渡辺部長は「早く輸入承認され、難治性患者にもきちんとした治療が簡単にできる状況になってほしい」と話している。



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