重症心不全に新治療法
両室ペーシング
左右の心室を電気刺激

 重症の心不全患者のうち、全身に血液を送り出す左心室への電気信号の伝達がうまくいかない患者に「両室ペーシング」という新しい治療法が日本で保険適用され、実施できるようになった。
 心臓移植が必要とされた患者でも症状が改善したケースもあり、専門家は「治療手段の1つとして欠かせない方法だ」と強調している。
 
 ▽バランスよく
 全身を回った血液は心臓で右心房に入り、右心室から肺に送られて酸素交換をする。その後、肺から左心房に戻り、左心室から全身に勢いよく送り出される。こうした動きは、右心房にある「洞結節」から出る電気信号が、右心室と左心室に伝わることで制御される。
 従来のペースメーカーは、洞結節からの電気信号発生がうまくいかず、脈が遅くなったり止まってしまう不整脈に対して、右心房や右心室を刺激するものだった。
 「だが、重症の心不全患者の約3割は、最も大事な左心室に電気信号が遅れて伝わるため、左心室がうまく動かなくなり、血液を十分送り出せない」と、東京女子医大の笠貫宏教授(循環器内科)。これは主に左心室へ電気が伝わる経路となる心筋が、障害されるのが原因。
 これに対し、左右両方の心室に電気刺激を与えてバランスの取れた動きをさせる方法が「両室ペーシング」だ。右心房の動きも同期させる。

 ▽劇的に症状改善
 心不全はさまざまな薬による治療を行い、それでも効かない場合に心臓移植などが考えられる。だが移植を待つ患者に比べ、提供者が少ないことなどから、移植を受けられる確率は低い。60歳以上も受けられない。
 同教授らは、1997年に同大が心臓移植の実施施設に認定された際、移植以外の治療法を調べた。すると、米国の論文で、移植待機患者8人のうち4人が両室ペーシングで非常に改善したという報告があり、研究を開始。99年に移植待機患者だった50代の男性に、最初の両室ペーシングを装着し、症状が劇的に改善した。現在は普通の生活を送っている。
 「この治療法は薬物療法の次の段階に位置付けられる」と笠貫教授。同大はこれまで約50人に実施、半年後に7割は症状が著しく改善した。
 市立秋田総合病院で、2001年10月、60代の男性がこの手術を受けた。拡張型心筋症で、人工呼吸器を装着し、薬も効かず治療が手詰まりになっていた。だが手術の半年後には退院できた。
 循環器内科の藤原敏弥医長は「症状は劇的に改善し、前よりも元気になった。この治療がなければ助からなかった」と話す。

 ▽装置は30グラム
 この手術をした青森県八戸市立市民病院の菊池文孝循環器内科科長によると、心筋の障害程度を示す血中のホルモンの量は、この装置を導入すると一気に下がるという。
 手術は、左の鎖骨の下を切り開き、重さ約30gの装置を置く。
 電気刺激用の線は3本に分かれ、大静脈を経由して右心房と右心室の内側へ。もう1本は、心臓の周りを通る冠静脈という細い血管に線を入れ、左心室を外側から刺激するように入れる。
 手術時間は3時間半から4時間だが、非常に細い冠静脈を傷付けてしまうなどの合併症がある。
 菊池科長は「生存率も高めるとみられるが、まだ長期的な経過は分からない」と話す。
 笠貫教授によると、心不全患者の死因の約半数は突然死が占める。心室細動などを起こすためで、そういう人には、植え込み型の除細動器と両室ペーシングの装置の両方を埋め込む必要があり、2つの機能を持つ機械も海外で開発されている。

 

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