再生医療で軟骨損傷治療
スポーツや事故の外傷に
広島大整形外科で開発


  関節の軟骨はこれまで、いったん損傷すると元通りに治す方法がなかった。しかし自分の細胞を使って修復する再生医療が効果を上げている。広島大病院整形外科の越智光夫(おち・みつお)教授は、患者の軟骨細胞を採取し、特殊な方法で目的の形に培養、修復に使う治療法を開発、これまでに100例以上に実施している。

1カ月で歩行も

 治療対象は、スポーツや交通事故による外傷、成長期の子供に多い離断性骨軟骨炎で、関節の軟骨が一センチ四方以上にわたって欠損した重い症例。患部はほとんどの場合がひざだという。
  軟骨には血管や神経組織がなく、損傷しても自然には元に戻らない。従来は損傷部の奥の骨をドリルでわざと傷つけ、出血させて組織の再生を期待する方法や、 欠損部を埋めるように小さな軟骨を複数移植する方法がとられてきたが、関節本来の非常に滑らかな状態を再現することはできなかった。
 治療はまず内視鏡で、患者の関節で体重のかからない部分の軟骨組織5―10ミリ四方を採取。酵素で組織をばらばらにして細胞を取り出し、欠損部の形に合わせた医療用コラーゲンゲルにまいて患者の血清を加え、約3週間培養する。
 これを手術で欠損部にはめ込み、患者の骨膜でふたをして縫い付ける。1カ月―1カ月半で、全体重をかけて歩けるようになるという。

競技再開も可能

 越智教授は前任の島根医大(当時)時代から合わせて、12―45歳の101例に実施。そのうち術後2年で評価した68例中、62例は修復部が周囲の軟骨組織とほとんど見分けがつかないほど生着した「正常」か、それに近い「ほぼ正常」と判定できるまでに回復した。
 例えば15歳の時に柔道で左ひざの半月板を損傷した女性は、痛みをこらえて柔道を続けた結果、軟骨が広範囲に損傷。17歳の時に2センチ四方の軟骨欠損部を治療、1年半後には柔道を再開できるまでに回復した。
 バレーボールで左ひざをひねり、靱帯(じんたい)も切れて2センチ四方の軟骨が欠けた35歳の男性は、治療から2年でバレーボールを再び楽しめるようになった。4センチ四方と大きな欠損部を修復した例もある。
 残り6例は、治療後に骨膜が一部はがれたり、再生軟骨が盛り上がり過ぎたりしたケースなどだが、いずれも再修復可能だったという。

高齢者にも

 本人の軟骨細胞を溶液中で培養して使う手法は1990年代に海外で開発されたが、液体をそのまま欠損部に注入したため漏れや偏りがあった。「ゲルを使って立体的に培養できるようにした点が新しい」と越智教授。広島大病院で先進医療の適用を検討している。
 一方、再生医療ベンチャーのジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J―TEC、愛知県蒲郡市)は、越智教授から技術移転を受け、2004年から、北海道大など全国5施設で数10例の臨床治験を行った。
 患者の軟骨細胞の培養に、より培養能力の高い外来の成長因子を使用。自己血清では十分な細胞増殖が見込めない高齢者に多い変形性関節症にも対象を広げた。同社研究開発部の菅原桂(すがわら・かつら)マネジャーは「患者の経過は今のところ良好です」と話している。
 治験の申し込みは既に終了したが、年内に製造販売承認を国に申請し、07年度の実用化を目指している。


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