小さな切開で心臓手術
ポートアクセス法
傷小さく女性に好評
 「心臓に穴が開いていると言われ、もうびっくり」-。千葉県の30代の主婦Aさんは昨年、動悸(どうき)に気付いて近所の病院へ行くと、心房中隔欠損症と診断された。心臓では大きな手術は避けられないと思い、ためらっていたが、小さな切開で済む新しい手術法があることを知り、この4月、慶応大病院で「ポートアクセス法」という手術を受けた。
 
▽Tシャツを着たい
 「小さいころから普通に運動していたが、全く気付かなかった」とAさん。「大きな傷が残るとTシャツも着られないので、この方法を選びました」。
 手術後3日目。ベッドの上に座り読書中だったが、にこやかに手術までの経過を話してくれた。
 日本でポートアクセス法を進めている同病院外科(心臓血管)の四津(よづ)良平教授は「Aさんはちょっと時間がかかっているが、この手術では、今ごろはそこら辺を歩き回っていても普通のこと」と話す。
 手術後8日目。Aさんはご主人と歩いて退院していった。
 通常、心臓の手術では胸骨正中切開という方法が取られる。胸の真ん中の胸骨をのど元からみぞおちまで25cmほど切り、左右に開いて心臓を真下に見ながら手術する方法だ。
 この場合、傷が大きく、3日目といえば、寝たままの安静状態が続き、やっと口から水が飲めるようになるころ。退院には約3週間かかるのが普通だ。
▽5センチ四方の穴から
 これに対し、患者になるべく負担を掛けない、小さい切開で済むような低侵襲性の手術が米国を中心に進められてきた。
 ポートアクセス法は、さらに一歩進めたもので、一つの小さな「穴」(ポート)から手術する(「アクセス」は接近の意味)ことが多い。
 「代表的なものは右胸の第四ろっ骨付近の皮膚を約5cm切り、ろっ骨の間を広げて、その穴から心臓の手術をする方法」(同教授)
 5cm四方ほどの穴からの手術だが、Aさんのような心臓の壁に開いた穴を縫う心房中隔欠損症の手術、僧帽弁や三尖(せん)弁の形成術や人工弁を取り付ける手術などが可能だ。
 心臓は左側にあるが、これらの手術は右胸からの方がやりやすいのだそうだ。
 「この方法の長所は美容の観点からだけでなく、回復が早いので社会復帰も早い。
骨を切らない点も大事。胸骨を切ると感染の合併症の心配がある。出血も少なく輸血もほとんどない」と同教授は指摘する。

▽手術の質は同じ
 女性の場合、手術の傷あとが目立たないように右の乳房の下の丸みに沿って切開する。こういった美容上の配慮もあり、特に若い女性がインターネットで調べて、この手術を受けたいと連絡してくることが多い。
 四津教授は「この方法が可能になったのは、超音波やエックス線CTなど画像診断技術が進歩し、正確な診断ができるようになったから。小さな“窓”からの手術なので高度な技術が必要だが、従来と変わらない質の手術ができるようになった」と強調する。
 同教授自らも、心臓の血液を止めるバルーンや鉗子(かんし)などの器具を工夫し、開発してきた。既に世界では六千例を超える手術が行われているという。
 「体を大きく傷つけたくない」と連絡してきた関西の20代の女性の場合、心房中隔欠損症をAさんと同じ方法で手術。術後わずか3日目で退院している。
 慶応大病院では1997年から約90例のポートアクセス法を実施。退院は術後平均7日目。再入院もない。
 四津教授は「約200例の低侵襲性手術を経験した後、この手術を始めた。日本では、伝統的に心臓手術は胸骨正中切開だが、症例を選んで患者さんに負担の少ない切開法を考えるときではないか」と話している。


 

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