内視鏡手術の欠点を改良
腹膜をつり上げ安全に
合併症発生を大幅減


  術後の痛みが少なく、早く退院できる内視鏡手術。患者の負担が少ないため急速に広がったが、医師の熟練を要する上、腹部をガスで膨らませるため重い合併症が起きることもある。その危険の一部を解消する、つり上げ法の手術が日本で開発されている。

多い合併症

 腹に空けた小さな穴から腹腔(ふくくう)鏡や鉗子(かんし)を入れ、モニターを見て行う内視鏡手術は1980年代後半に欧州で開発された。日本には90年代始めに紹介され、今では腹部以外にも使われている。
 ただ二次元画面を見て行う作業は非常に難しい。さらに視野と作業空間を確保するため、二酸化炭素ガスを注入して腹腔を膨らませる「気腹法」の弊害も大きい。
 大出血時には視野確保のため、あふれた血液を吸引するが、その際ガスも一緒に吸い込むため腹部がしぼみ、視野が失われる悪循環が起きる。
  さらに手術が長時間に及んだり、より良い視野を得ようとガス圧を高めるとさまざまな合併症が起きる。肺や心臓、静脈が圧迫されることによる無気肺や不整 脈、静脈血栓症、肩痛、ガスが組織や血中に入り込む気腫や空気塞栓(そくせん)など。心筋の一部がまひするたこつぼ型心筋症の報告もある。
 このため高いガス圧が必要な肥満した人は危険が多く、肺機能が低下した人や過去の手術で臓器が癒着した人には行えないなどの制約があった。

ドームからテントへ

 埼玉医大総合医療センター橋本大定(はしもと・だいじょう)教授(外科)は東京警察病院に勤務していた91年、気腹法で手術をした。
 しかし予期せぬ出血時の止血が難しいことや、術後にひどい肩痛で一週間も起きられない症例を経験し、5例で打ち切った。「このままではいつか大事故を起こすと思った」と橋本教授。
 そこで考案したのが、外から物理的に皮膚をつり上げる方法。内部を加圧した東京ドームからテントへのイメージだ。
 動物実験を繰り返し、92年から本格実施。その後も改良を重ね、専用器具を開発。今ではコの字形の鋼鉄製のヘラを2本、へその部分の2、3センチの切開穴から挿入。皮膚の下の腹膜ごとつり上げるよう改良している。
 内視鏡手術の適用も広がり、同医大の胆のう摘出はすべてこの方法で、他の手術にも広く使っている。器具も安く経済的で、橋本教授は海外にも指導に招かれている。
 「加圧しないので止血も簡単で、ガスによる合併症もない」と橋本教授。術後の痛みも気腹法より軽く、患者の多くは鎮痛剤を使わないという。

普及への壁

 つり上げ法手術の国際学会も組織され、国内の医師による研究会も定期的に開かれている。
 防衛医大産婦人科も8年ほど前から、悪性腫瘍(しゅよう)や高齢者以外の手術は、基本的につり上げ法で臨んでいる。「気体を体内に入れることによるアクシデントの可能性は排除できないから」と古谷健一(ふるや・けんいち)教授は話す。
 ただ国内で行われている内視鏡手術の約90%はまだ気腹法。その背景にはガスを注入するだけで視野が得られる気腹法の簡便さが大きかった。
 「確かにこれまでは視野確保で試行錯誤を続けてきた」と橋本教授。だが今ではつり上げ装置などの改良で問題ないところまで来ているという。
 慈恵医大青戸病院の死亡事故だけでなく、内視鏡手術によるトラブルは今も相次ぐ。つり上げ法でも医師の熟練などの課題は残るが、橋本教授は「患者の安全を考えれば、つり上げ法の優位は揺るがない」と、その普及を訴えている。




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