胎児を母体内で治す時代に
2手術が高度先進医療に
大阪の循環器病センター

  診断技術の進歩で、胎児の病気もかなり分かるようになった。そこで問題になるのが、母胎の赤ちゃんをどう治療するか。国立循環器病センター(大阪・吹田)の2種類の胎児手術がこのほど、高度先進医療として認められた。胎児での認定は国内初。昨年11月には日本胎児治療学会も設立され、胎児医療は大きく動きだした。
 
 ▽人工の尿路
   昨年末に認められたのが、尿路が詰まっておしっこが出ない胎児に、超音波で確認しながら人工の尿路となるカテーテルを設置する「尿路―羊水腔(くう)シャント手術」。
 妊娠後期の羊水は、実は胎児の尿。胎児がこの羊水を〝呼吸〟することで肺は発育する。胎児の尿が出ないと羊水がなくなり、肺は正常に発育しない。腎不全を起こすこともある。尿路閉塞(へいそく)の時期や程度にもよるが、生後一年未満でほぼ100%、呼吸不全で死亡する。発生率は妊娠2万例に1例ともされる。
 治療には、独自開発したダブルバスケットカテーテルという、2カ所にストッパーがある直径約4ミリ、長さ6センチのチューブを使う。これを細い針に仕込んで母親の腹部から刺し込み、胎児のぼうこうと子宮内をつなぐ。手術時間は2時間程度。
 国内では1988年に同センターが初めて実施した。手術時期が遅かったためか肺の発育が不十分で、胎児は出産半年後に感染症で死亡したが、これまでに12例を実施、7例が生存している。日本産科婦人科学会の集計でも、96―99年に全国で21例実施され、うち12例で効果が確認された。

 
 ▽生存率60%に
 次いで3月、肺に水がたまった胸水症の胎児への「胸腔(きょうくう)―羊水腔シャント手術」が認められた。
 心不全やリンパ管腫などで肺水腫になると、胎児の場合、胸水で血管系が圧迫され、心不全が悪化、肺の発育も妨げられる。発生率は妊娠250―300例に1例とされ、原因不明の特発性のものが最も多い。
 手術は尿路シャントと同様だが、ぼうこうではなく胸にチューブを入れ、胸水が抜けるようにする。出産後、人工呼吸管理が必要になることが多いが、1カ月程度で、後は普通に生活できる。
 単純性胸水症では、特段の治療をしなくても30―40%が生存するが、手術により60%程度に向上するという。
 同センターは昨年度までに13例を実施、6例が生存している。4月には、高度先進医療適用の1例目となる手術を実施した。日産婦の全国集計でも、96―99年の28例中20例に効果が認められている。


 ▽医療体系に
 同センター周産期科の千葉喜英(ちば・よしひで)部長は「昔の産科は母体保護が目標だったが、妊産婦の死亡率が下がり、赤ちゃんの保護が次の課題になった。今は未熟児医療の進歩で750グラムあればほぼ助かる時代。いわば出産にこぎ着ければ助かるわけで、次は当然、胎内での治療が目標になる」と話す。
 胎児治療は60年代初め、英国での胎児輸血で始まった。その後、86年には米国で胎児の尿路手術が行われ、胎児手術は欧米で本格化した。
 ただ日本では、胎児は健康保険の対象外になることなど、さまざまな障壁で普及が遅れた。今回の高度先進医療の認定で、ようやく医療体系に組み込まれたことになる。
 このほか、胎児の不整脈や、一卵性双生児の血管がつながり、一方の胎児が貧血になる双胎間輸血症候群、さらに横隔膜の一部に穴が開いた横隔膜ヘルニアなど、さまざまな疾患への胎児治療が各地で手掛けられるようになっている。





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