見直される心臓縮小手術
改良重ね治療成績向上
日本発の技術、世界へ

  移植でしか助からない重い心筋症患者の心臓を切り縮め、心機能を改善する左室形成手術。臓器提供の不足が続くにもかかわらず、日本でも世界でも、思うほど普及していなかった。しかし、日本での地道な改良の結果、成績も向上し、世界の注目を集め始めた。
 
 ▽8年後も安定
 左室形成手術の代表がバチスタ手術。心臓の筋肉細胞が変化して収縮力が落ち、ぱんぱんに膨れた心筋症患者の心臓から、最後に血液を送り出す左心室の心筋を切り取って縮小し、収縮力を回復させる大胆な方法で、ブラジルのバチスタ博士が考案した。
 日本でも1996年、初の手術を手掛けた須磨久善(すま・ひさよし)医師が院長を務める神奈川県の葉山ハートセンターが症例を重ねる。
 昨年6月までの120例では、1年生存率は68・5%、3年では57・9%、5年は45・4%。容体が安定した状態での待機手術だけでは、それぞれ77・8%、69・4%、56・9%に達する。
 患者の大部分は特発性拡張型心筋症(IDCM)。治療も手詰まりで、ベッドから離れられない状態だったが、手術から8年後でも、普通の生活を送る人もいる。

 ▽常識を覆す

 しかし、この手術はなかなか広まらなかった。米国の心臓治療のメッカ、クリーブランドクリニックが、死亡率や術後の再発を挙げ「移植手術の代替にはならない」としたことが大きかった。
 確かに当初のバチスタ手術では、効果が顕著だったのは3分の1だけ。「一部には間違いなく効果があるが、何が悪いのか分からなかった」と同センターの堀井泰浩(ほりい・たいこう)医長は振り返る。
 それを打開したのが須磨院長の「まだ元気な心筋を切り取り、傷んだ心筋を残したケースがあるのでは」との発想。それまで心筋全体が傷んでいると考え、手術では切除、縫合しやすい心臓の裏側の後壁に画一的にメスを入れていた。
 須磨院長は現名誉院長の磯村正(いそむら・ただし)医師らと、手術中に人工心肺につなぎ、心臓が緩んだ状態になった際に超音波診断し、心筋の損傷個所を探る方法を開発。手術が難しい、右心室と隔てる間仕切りがある前壁側に損傷がある場合は、合成繊維ダクロンの布を補強用に当てて縫合する「セーブ術」を考案した。
 いわば患者の状態に合わせたオーダーメード手術。IDCMの96例について、この方法の導入前の14例と導入後の82例を比べると効果は歴然だ。術後、退院できず死亡した患者は42・8%から14・6%に下がった。待機手術だけでみると22・2%から6・1%になる。

 ▽須磨手術

 この実績に、最近ようやく風向きが変わった。須磨院長は1月、オランダのライデン大に招かれ、公開手術に臨んだ。現地の医師は大きな衝撃を受け、既に一連の方法を「須磨手術」と呼んでいる。韓国や中国の学会にも招待されている。
 国内でも京大病院が多くの症例を重ねる。ただ根治手術ではない。「手の尽くしようのない重症の心不全を、薬でコントロールできる心不全まで持っていくということ」と堀井医長は強調する。
 術後も内科治療が続くが、3―5年間に心臓は平均で10%程度再拡張するという。劇的に改善される人がいる一方、急激に再拡張する人も。どこに違いがあるのかまだ正確には分からず「今後の課題」(須磨院長)だ。
 ただ患者は、治療もままならない袋小路から抜け出せる。同センターは術前に心筋の状態をつかむ検査法の開発など、成績のさらなる向上に努力を続けている。




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