| 意図せずに便を漏らしてしまう「便失禁」。最近注目される尿失禁と同様、主に括約筋の筋力低下で起きる。恥ずかしさで医師にかかる人も少なく、これまではあまり顧みられなかったが、ようやく治療の手が及ぼうとしている。
▽出産も原因に
便失禁の原因には腸の炎症や直腸腫瘍(しゅよう)、直腸脱、さらに糖尿病など、さまざまだが、最も多いのが肛門(こうもん)を締める括約筋に問題があるケース。 括約筋には内肛門括約筋と外肛門括約筋がある。前者の筋力が落ちると、知らないうちに漏れる「漏出性失禁」、後者の場合は便意を我慢できずに粗相してしまう「切迫性失禁」になる。 尿失禁と同様、くしゃみや笑った際など、ちょっとした腹圧の変化でも起きるという。 括約筋の筋力低下は加齢や手術、外傷で起きる。さらに女性は出産による括約筋の損傷が遠因になることも多く、年を取って筋力が落ちると失禁につながる。65歳以上では加齢のため男女を問わず多くなる。 精神的なショックは尿失禁よりも大きいとされる。正確な患者数は分からないが、日本では65歳以上の約2%が便失禁で毎日悩むようになるとの報告もある。
▽簡単、安全
外肛門括約筋は自分の意思で動かせる随意筋なので、肛門を自分で締めるバイオフィードバックという訓練法などの自己訓練で改善が可能。 一方の内肛門括約筋は心臓などと同じ不随意筋なのでこれまで訓練法がなかった。だが最近になり、低周波電流を使った訓練装置が登場した。 原理はダイエット用に流行した腹部などに張り付ける刺激装置や、整骨院などの治療装置と同じ。肛門に筒状の装置を挿入、発生する低周波電流で括約筋に緊張と緩みを繰り返させる。操作は簡単で、安全性も高い。 昨年、便失禁外来を開設した北海道旭川市のくにもと病院には、今年2月までの1年間に156人が受診した。平均年齢は67.6歳。 問診や肛門内圧検査、超音波検査などで約88%の主原因が判明。その結果、括約筋損傷が34人と最も多かった。原因不明は19人だったが、平均年齢は74.6歳と高く、加齢による筋力低下の影響がうかがえた。
▽数日で効果も
重症例や患者が若い場合は括約筋の修復手術が必要になるが、手術後の補助療法にも低周波電気刺激療法を採用。さらに糖尿病や脊椎(せきつい)疾患、脳梗塞(こうそく)などによる便失禁も含め、現在までに73人がこの治療を受けた。
週一回、通院してもらい、5分間の治療を実施。基本的にはこれを3カ月続けるが、治療中の人も含め、7割以上に効果が認められるという。 この低周波治療器を考案したのは、山口県周南市にある宇都宮クリニックの宇都宮高賢(うつのみや・たかよし)院長。整形外科で筋力増強に使われていることをヒントに、約三年前に製作した。
「早い人は数日で効果が表れる。手術などで肛門のクッション性が失われた場合も、この治療による血流の増加で改善する」と宇都宮院長。 さらに中年女性に多い神経障害の一種で、夜中などに突然、肛門が痛む肛門痛の治療にも効果を発揮するという。
くにもと病院肛門科の安部達也(あべ・たつや)医師は「早い人では4回の治療で便漏れがなくなった。ペースメーカーを装着している人は使えないし、筋力が落ちた超高齢者には効果は期待できないが、悩まずに一度相談を」と話している。
【編注】他に低周波治療を実施している主な病院は家田病院(愛知県豊田市)三木達病院(徳島市)螢クリニック(山口県下関市)高野病院(熊本市) |