産後うつの支援進む
保健師が家庭訪問
福岡市、心の状態を把握

 日本では従来、「産後のうつ」は少ないとみられていたが、実際には出産後、ほぼ10人に1人の割合で母親がうつ状態になることが分かってきた。
 こうした母親を保健師が家庭訪問し、心の状態をチェックしながら、家事や育児を支援するシステムを全国に先駆けて福岡市が導入している。子供虐待の予防にもつながっているようだ。
 
 ▽九州大と共同で
 システム導入に取り組んだ東区保健福祉センター副所長の鈴宮寛子さん(医学博士)は「夫の協力や保健師によるサポートでゆっくりする時間が取れれば、多くのお母さんが不安定な時期を乗り切れる」と話す。
 鈴宮さんは、1998年ごろから、産後のうつに関して九州大医学部精神神経科の吉田敬子講師らと共同研究を開始。博多区内で保健師による家庭訪問を始め、2001年からは福岡市全域で実施している。
 「家庭訪問の手掛かりとなるのは、母子手帳に付いている出生連絡票。はがきになっているので、産後、相談したいことなどを記入して投かんする仕組み」と鈴宮さん。
 出産した女性の約四割から、はがきが来るそうで、このうち、赤ちゃんが第一子か未熟児の場合は必ず保健師か助産師が家庭訪問する。
 福岡市で昨年生まれた子供は約1万3000人。うち家庭訪問しているのは約5300人という。

 ▽13・9%にうつ
 家庭訪問では、赤ちゃんの発育や発達のチェックと育児や産後の体のことを尋ね、最後に「お母さんの心のこと」について、英国で開発された「エジンバラ産後うつ病質問紙票」(EPDS)を使って聞く。
 「物事がうまくいかないときに、不必要に自分を責める」など10項目の質問があり、「ほとんどない」「時々ある」などの答えから選んでもらう。うつに近いほど点数が高くなり、心の状態が把握できるという。
 この時、同時に「母子愛着チェックシート」なども記入してもらう。
 鈴宮さんらが、02-03年に全国33の保健センターと共同で約3700人を家庭訪問し、13・9%に産後のうつがあることが判明。欧米とほぼ同じだったという。
 出生連絡票によって訪問依頼を受けた1例-。
 妊娠中に引っ越し、近所に知人ができないまま、初めての出産。出産後は実母が手伝いに来ていたが、「母が帰った後のことが心配」と保健師に話す。EPDSの結果はうつに近かった。
 保健師は、実母がいる間は、まず優先して心身の休養を取るよう助言。

 ▽増加する育児不安
 「心配なときは、いつでも相談に乗ります」と伝えて、実母が帰った直後に再び訪問。「自分が風邪のとき、母乳をあげてよいか」などの細かい質問に一つ一つ丁寧に回答して、安心させた。
 1人で育児をするようになって一時不安が増したようだったが、3回目の訪問では、表情も明るく、笑顔も多くなって「ずいぶん楽になりました」と話した。EPDS点数も低下し、育児や家事のリズムが安定したことが確認できたという。
 「今のお母さんは、育児が初めてで、赤ちゃんに触るのも初めての人も多い。これまでは子供の発達に重点が置かれ、母親の育児不安など、心の問題は軽視されがちだった」と鈴宮さん。
 実際に医療が必要なケースは少ないが、育児不安は増加しつつある。体験不足や「マニュアル人間化」していることで、育児に最も必要な「応用」が利かないことにも一因があるようだ。
 鈴宮さんは「産後は、母子にとっても一番大事な時期。サポートが入るとうまく乗り切れることが多い」と話している。

 

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