| 女性の骨盤の中にある子宮やぼうこうなどの臓器が下がる「性器脱」。重い場合は膣(ちつ)に落ち込んで体外に出てしまうこともある。手術をしても再発率が高いなどの問題があったが、臓器を支える新しい人工メッシュが開発され、治療の主流になると期待されている。
▽隠れた患者
亀田総合病院(千葉県鴨川市)の清水幸子(しみず・ゆきこ)・産婦人科主任部長によると、患者が訴える主な自覚症状は「おなかの中が下がった感じで気持ちが悪い」「お風呂で何か出てきているのに触れた」「残便感がある」「いすに座るとき、陰部の辺りに違和感がある」―など。
「温泉などで恥ずかしい思いをしても、病気かどうか分からず、あきらめている人が多い」(清水部長)といい、このため国内の正確な患者数は分からない。ただ1999年に報告されたスウェーデンでの調査では、20―50代の30.8%、特に50代では55.6%に性器脱が見つかっており、日本でも中高年を中心に患者は非常に多いとみられている。
▽出産時の損傷 骨盤内の臓器は筋肉や靱帯(じんたい)などが組み合わさったハンモック状の組織に支えられている。この組織は非常に柔軟で、普段は臓器を支えるため緊張し
ているが、排便時などには少し緩む。出産時には胎児が通過するため大きく延びて傷つくが、2、3カ月で自然に元に戻ることが多い。 だが「何度も出産して損傷を繰り返すことは性器脱のリスクになる」と清水部長。便秘がちの人も排便時に腹筋に力を入れると臓器を下に押す力が働くため発症しやすい。更年期に伴う女性ホルモンの低下で膣壁や筋肉の線維化が進むことも原因となる。 昭和大横浜市北部病院の島田誠(しまだ・まこと)教授(泌尿器科)によると、軽い場合は膣内に臓器が少し下がるだけだが、重症になると落ち込んだ臓器に押され、膣が裏返しになって体外に出てしまうことも。 こうなると膣の粘膜が乾燥し、下着と擦れて出血することがある。歩行困難になることもあり「QOL(生活の質)が非常に大きく低下する」(島田教授)という。
▽従来の問題解決 重度の性器脱の根治には手術が必要。従来は緩んだ組織を切除したり縫い縮めたりしていたが、ひきつれて痛かったり、緩んで再発したりすることが多かった。 手術以外の治療には、リング状のペッサリーという器具を膣に入れて臓器を支える方法があるが、長期間使うと感染や炎症などを起こすことがあり、定期的な受診が欠かせない。 これに対し、合成繊維を網状に編んだメッシュで臓器間の壁を補強し、膣の中に落ち込むのを防ぐ方法が数年前から普及し始めた。再発や痛み、感染などが減る上、術後の違和感が少なくQOL向上にも役立つという。 島田教授によると手術時間は、膣とぼうこうの間を補強するだけなら40―50分。膣と直腸の間の補強や尿失禁の予防まですると二時間程度。 いずれも膣側から行うため開腹は不要で「これまでに40例以上行ったが再発はない」と島田教授。柔らかくて強いメッシュも開発され、従来の手術の問題点はほとんど解決したという。 島田教授は「患者は人に言えずに1人で耐えていることが多い。受診しても臓器別の診療では適切に診てもらえないこともある。女性の骨盤内を総合的に診る態勢が必要だ」と話している。
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