慢性疼痛の対策が可能に
半場道子さんに聞く
 痛みは、その原因であるけがや病気が治れば収まるはずと長い間、考えられていた。だが現実には治癒後も痛みの続く場合がある。最近、そんな痛みの謎が解明され、対策も可能になってきた。「痛みの生理学」の研究に取り組む東京医科歯科大非常勤講師、半場道子さんに現状を聞いた。    
▽幻歯痛
   痛みをめぐる謎の中で最大の一つは、痛みの原因が無くなった後で何年も続く慢性 疼痛(とうつう)のメカニズムだ。例えば、痛む歯を抜いたのに痛みが続く「幻歯 痛」という現象がある。痛みは抜いた歯の周囲や顔全体にまで広がり、10数年続く こともある。
 その原因は、末しょう神経から痛みの刺激を受け取る中枢神経細胞の「可塑性」に あることが半場さんの研究で明らかになった。可塑性とは粘土をたたくと、へこんだ 形が残るような性質のこと。学習や記憶など脳機能の基礎的な過程でもある。
 「強い痛みが繰り返し続くと、脳や脊髄(せきずい)の中枢神経細胞が興奮したま ま、長い間、元に戻らない状態が続く。あたかも痛みが記憶されたかのように」
 その結果、患部が治っても、気圧や温度の変化などの刺激でも痛みを感じるように なる。慢性疼痛へのプロセスは痛みが始まった瞬間から始まっていたわけだ。
 慢性疼痛の治療薬はまだ見つかっていない。痛みの信号が中枢神経に入るのを即効 性の鎮痛剤や局所麻酔薬で遮断するのが有効な対策だ。
 半場さんは国内外の医師に痛みの早期遮断の重要性を説いてきた。「鎮痛剤の最初 の1錠はできるだけ早く、が基本です。抜歯なら治療の前に服用させてほしい」
 また、外科手術の場合、全身麻酔だけだと脳は眠っていても、痛みの刺激は入り続 ける。このため、鎮痛剤と局所麻酔を加えるべきだという。

▽分子レベルで解明
 慢性疼痛のメカニズムを分子レベルで解明する研究も進んでいる。
 強い痛みが続くと、中枢神経細胞内に遺伝子が発現し、タンパクが生成されること は分かっている。その性質や働きの解明はこれからの課題だ。
 半場さんは、末しょう神経末端にある「mGluR1」という受容体の働きを薬物 で阻害すると、「痛みの記憶」が長期にわたって増強されないことを見いだした。
 「人類が痛みと決別できる日を目指します。関節リウマチやがん性疼痛など、末 しょう神経が病的状態になるニューロパシックペインなど取り組むべき課題はまだ多 いが、生理学、免疫学、分子生物学などの研究者が分野の壁を超えて力を合わせれ ば、解決できると思います」

   

  


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