胎児の手術、国内でも始動
チームで要否を慎重判断
国立成育医療センター
 妊娠中の超音波検査で、胎児に深刻な異常が見つかった。「出産後の治療では、大きな効果は期待できない」と言われ、目の前が真っ暗に―。こんなケースの少なくとも一部は「胎児手術」で救えるかもしれない。昨年開設した国立成育医療センター(東京都世田谷区)は、胎児治療の専門チームを発足させ、取り組みを始めている。
 
▽手術後、出産へ
 昨年秋のこと。超音波モニターに映った妊娠21週の胎児は、体がむくみ、胸にも水がたまり始めていた。成育医療センター特殊診療部長の千葉敏雄さん(53)は「放置すれば心不全になる可能性が大きい、危険な状態でした」と振り返る。
 もとは双子だった胎児の一方は、心臓など主要臓器が形成されない「無心体」という異常で、既に致命的な状態だった。だが体の一部には血流があったために、正常に育っていたもう一方の胎児の心臓に余分な負担がかかり、力尽きそうになっていたのだ。
 千葉さんらは残った胎児を助けるため、不要な血流を止める手術が必要だと判断。刺した針から高周波電流を流して患部を焼く、肝臓がん治療に使われるのと似た方法で手術を行うことで、倫理委員会の承認を得た。
 全身麻酔をかけた妊婦のおなかに針を刺し、超音波画像を見ながら行われた手術は、約2時間で終了。その後胎児の発育は正常に戻り、妊婦は今春出産する予定だ。
 この方法は、千葉さんが勤務していた米カリフォルニア大サンフランシスコ校(UCSF)の胎児治療チームが約5年前に始めた。国内でも数件の実施例があるという。
 
▽多様なケースに対応
 胎児手術には、米国ではUCSFやフィラデルフィア小児病院など特定の施設が積極的に取り組んでおり、欧州でも、複数の施設が共通の方法で手術を実施する試みが進んでいる。一方、国内での取り組みはまだ本格化していない。
 橋都浩平・東京大教授(小児外科)はその理由として「手術が最善の方法かどうかの判断が難しい」ことを挙げる。
 妊娠中に胎児への手術を行えば、流産や早産の危険は増加する。それをしのぐメリットがあるのか、超音波検査など限られたデータだけで判断しなければならない。
 成育医療センターでは、手術の要否を慎重に判定し、多様なケースに対応できるよう、さまざまな専門分野の医師やソーシャルワーカーらによる専門チームを作った。
 メンバーは千葉さんを中心に産科、外科、新生児科、麻酔科、放射線診療部などの10数人。チームが発足した昨年9月からこれまで、肺の腫瘍(しゅよう)や、先天性横隔膜ヘルニアなどの疾患が胎児に見つかった妊婦10人近くを診察したが「手術が最善」との結論が出たのは「無心体」の一例のみ。残りは慎重に経過を見ることになった。

▽早期発見と情報提供
 胎児手術を実施する場合、望ましい時期は「疾患の種類や重症度にもよるが、多くは妊娠20週から25週ごろ」(千葉さん)だという。胎児が小さすぎても、育ちすぎても手術成績を上げるのは難しくなる。
 ところが、胎児の異常がちょうどこの時期までに発見されるとは限らない。手術の対象になるのが比較的まれな疾患という事情もあり、産婦人科での発見が遅れることも珍しくないという。
 一方、早く見つかった場合でも、治療の可能性などについて妊婦に情報が伝えられなければ、思い詰めて人工妊娠中絶を選んでしまうことも考えられる。
 千葉さんは「妊婦さんや産婦人科医に、胎児手術という道もあることを知ってほしい。発展途上の手法なので、態勢が整ったセンターで集中的に実施し、結果を公表して評価を受けるというやり方で日本にも根付かせたい」と話している。
 

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