早めに手を打とう
悩み多い便失禁
高齢社会で増加

 日常生活の一部である“排せつ作業”は、一度トラブルを抱えると結構厄介だ。尿失禁は最近、少しずつ社会の理解が進んできたが、その陰には「便失禁」の問題が残っている。
 大腸肛(こう)門病センター日高病院(福岡県久留米市)の高野正博院長は「便失禁はまだタブー視されているが、現実にはこれで悩む人は多く、高齢化の進行で、ますます増加していく。早めに手を打とう」と話す。
 ▽出産で損傷
 一般的に便失禁は、肛門を締める括(かつ)約筋が出産に伴って損傷を受けることが多いため、65歳までは女性が多く、それ以降は男女とも急激に増えるという。
 「人生50年だったら問題は生じなかった。当院の受診者も圧倒的に高齢者が多くなった」と同院長。  腸の疾患や痔(じ)、直腸がんの手術、外傷など、さまざまな疾患に伴うものも少なくない。
 括約筋の力は通常、無意識の状態で締まっている「静止圧」で100cmH2O(水柱)程度。一方、意識して締める「随意圧」で静止圧の約2倍という。
 「静止圧が50cmH20以下になると、便が漏れるようになる。特に70歳を過ぎると、がくっと括約筋の力が落ちる。女性の場合、もともと括約筋が弱いのと、お産で傷つきやすい分、便失禁を起こしやすくなる」(同院長)
 ▽肛門内圧検査
 女性は構造上、前方の括約筋が弱く、出産時に括約筋が切れたり薄くなる。回復はするが、完全にはなかなか戻らない。その上、排尿や排便をつかさどる陰部神経も骨盤の内側を通っているため、出産時にすれて損傷を受けやすいという。
 同院長は、括約筋の力が弱ってきた兆候として、①便が我慢できない②トイレに走り込む③下着が汚れる④便とガスの区別がつかない⑤下痢便が漏れる―などを挙げる。
 「この段階で受診し、肛門の圧を測って対処した方がよい」という。
 現在は肛門内圧検査で静止圧や随意圧を短時間で簡単に測れる。圧センサーが先に付いた直径5mmほどの細い管を肛門に入れると、その場でコンピューター画面にグラフで表示される。
 便失禁治療では、まず便の方を調整する保存療法がある。便を硬くする止痢剤や硬さを調整する薬を使ったり、腸の過敏性を取る薬などを使う。
 食事療法や排便習慣を改善する生活療法も大事だ。例えば、朝食を食べると大腸が動きだして排便する「胃結腸反射」機能をうまく利用する。
 ▽有効なBF療法
 かなり有効なのは、肛門に入れた圧センサーを利用して、画面で括約筋の圧力値を見ながら、肛門の締め具合を自分で覚える「バイオフィードバック(BF)療法」。自宅で1人で括約筋の運動ができるようになる。
 検査室内で、圧センサーを肛門に入れ、5-10秒間締める訓練をする。自分では締めているのに、緩んでしまう人もおり、最初は画面を見ながら力を入れる訓練する。1回15分ぐらいの訓練だが、何回か通って、訓練するのが普通という。
 「この方法で70-80%の人は50cmH2O以上に戻り、漏れないようになる」(同院長)  陰部神経に電気刺激を与え、括約筋を強くする電気刺激療法もある。
 手術による括約筋形成術では、括約筋を縫い合わせたり、縫い重ねたりして括約筋を厚くする。大でん筋などを持ってきて肛門の周りに巻いたりする方法もあるという。
 高野院長は「70歳までにBF療法で括約筋を鍛錬しておくのが有効だ。便失禁の受診は日本大腸肛門病学会認定の専門医がいる肛門科がよい」と話している。

 

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