「江戸」が現代に生きる
黒酢製法の不思議

 
 桜島と鹿児島湾(錦江湾)を望む丘の斜面に、びっしりと黒酢造りのつぼが並ぶ。200年前の江戸時代から変わらぬ「つぼ酢」造りを続けている鹿児島県福山町の「つぼ畑」だ。
 その発酵過程はいまだに謎に包まれている。「つぼに仕込む原料は米麹(こうじ)と蒸した米、地下水の3つ。あとは周囲の恵まれた環境と太陽エネルギーだけ」と坂元醸造(鹿児島市)福山工場の蔵元忠明(くらもと・ただあき)工場長。

  ▽つぼ酢づくり
 健康志向が進む中、血圧やコレステロール低下作用などが次々と明らかにされ、需要が急激に拡大、大手食酢メーカーなども参入して、黒酢を販売するようになった。
 黒っぽい酢であれば、原料も製法も値段もさまざまな「黒酢」が出ている。しかし、原点はつぼ酢造りにある。  そもそも黒酢の名付け親で、ブームに火を付けたのも同醸造5代目の坂元昭夫(さかもと・あきお)会長だ。薬剤師として黒酢の効用に気付いたことをきっかけに、科学的データの裏付けを求めて、さまざまな研究者のもとを訪ね歩いた。
 つぼ酢づくりの記録を残したいと東京農大の専門家(発酵学)のところへ行った際には、「『世界を見て回っているが、その製法で絶対、酢ができるはずがない』と言われた。『こっちは既に200年間も造っている』と言うとびっくりされた」と坂元会長は振り返る。
 通常、酢(米酢)は、糖化・アルコール発酵・酢酸発酵の3段階を経る。まず、酵母菌を加えて酒を造り、次に酢酸菌を加えての酢造りだ。
 つぼ酢は何も加えない。しかし、不思議に発酵は連続して進む。「原料は、高さ約63cmのつぼの7分目まで入れた所で止め、上部に空気を残す。縦に長く、上部が太いつぼの形や大きさも大事」と蔵元工場長。
   
 ▽複雑な発酵過程
 これより大きいかめや小さいつぼでは発酵が途中で止まってしまう。また、同じつぼと原料を東京農大に持ち込んで試したが駄目だったという。
 つぼのミクロのすき間や周囲の自然界にすむ酵母菌や酢酸菌、温暖な気候がカギになるようだ。
 発酵の全体像解明に、東大農学部の五十嵐研究室と共同研究中で、分子生物学的手法で微生物の変遷を分析している。
 黒酢の仕込みは春と秋の2回。仕込み後、酢造りは半年で済み、あとの半年は熟成に当てる。半年の時点で白っぽかった酢がこはく色に変化し、1年で黒酢ができる。
 春の仕込みが近づいたつぼ畑では、熟成中のつぼ酢を竹の棒でかきまぜる作業が続いていた。
 実は、なぜ色づくかもよく分かっていない。こちらも複雑な発酵過程の解明が必要だそうだ。



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