見えてきた疲れの回路
脳の前頭野が活性化
緑の香りが疲労を回復
 疲労は体を守る大切なアラーム(警報)だが、疲労の感じ方は主観的な側面があって、外からはなかなか測ることができない。ところが最近、人が脳のどこで疲労を感じるかが突き止められ、「疲労神経回路」の存在が浮上してきた。
 慢性疲労症候群の研究を契機に進められている文部科学省の「疲労研究班」の成果だ。同時に脳の疲労を回復させる方法も少しずつ明らかになってきている。  
▽疲労神経回路
 疲れると脳で活性化する場所がある。「眼窩(がんか)前頭野と呼ばれる部分で、顔を前から見ると鼻の上で目の奥。左右二カ所ある」と同班のリーダーで大阪市立大大学院システム神経科学の渡辺恭良教授。
 健康なボランティア12人に数字を使ったATMTというタッチパネル式の検査を2時間やってもらい、陽電子放射断層撮影装置(PET)で脳血流を追跡した結果、明らかになった。
 この部分では、自覚的な疲労感の増加度に比例して血流量が上昇した。
 同教授は脳には「疲労神経回路」(仮説)という抑制系の回路があるとみており、眼窩前頭野は周辺の部位と連動し、活性化すると集中力や注意力、意欲などを低下させるらしい。
 ただ、同じ疲れでも慢性疲労症候群の患者ではこの部分の活性化は見られず、急性の疲労で生じる状態とみられる。急性から慢性疲労へどのようにうつっていくのか追跡が続いている。
 このように、休憩で回復するレベル、一晩で治るレベル、週・月単位で長く続く疲れとメカニズムは違うようだ。  
▽スーパーラット

 この疲労神経回路が解明できれば、疲労の回復因子や予防の方法も見つけやすくなってくる。
 この回路は、うつ病にも関与する神経伝達物質のセロトニン系が関係しているとみられ、モデル動物を使ってさまざまな疲労を分析、疲労のメカニズムや回復方法を探索中だ。
 「強制水泳パニックモデル」では、ネズミを1本のロープを垂らした水槽に入れ、30分必死に泳がせる。
 一日目は疲労でぐったりして横たわったまま、長い時間起きてこないが、2日目、3日目と同じように泳がしていくと、ぐったりする時間が短くなり、10日もすると全く横たわらない“スーパーラット”ができる。
 このラットは何らかの体内物質の変化で、上手に疲労を回避できるようになったはずだが、それは何か。
 疲れたネズミを調べると、脳でセロトニンやドーパミンの異常が見られたり、大脳皮質の代謝異常、遺伝子の変化などが見られることが分かってきた。
▽疲労回復戦略は?
 疲れたネズミの脳脊髄(せきずい)液を元気なネズミに注入すると活動が落ちることも分かってきた。
 一方、同班は大阪府民約1200人を対象に疲労回復戦略のアンケートを実 施。栄養ドリンクから音楽療法、指圧、酒など数多くの疲労回復法が集まった。 入浴がよいと実行している人が一番多く、数は比較的少ないが、笑いやアニマ ルセラピーの効果が非常に高いという回答もあった。
また、疲労回復に役立つことが科学的に分かりつつあるのが「緑の香り」だ。 成分は木の葉に含まれる青葉アルコールや青葉アルデヒド。
簡単なボタンを押す作業をサルに延々と続けさせる実験で、緑の香りをかがせ たサルは作業能力が低下しないことが分かっている。
渡辺教授は「緑の香りは脳の疲れを取るようだ。今後、疲労神経回路の解明と ともに、疲労をリセット(回復)する新しいものを見つけていきたい」と話して いる。緑の香りはキンチョウの部屋用芳香剤「クリーンフロー」(スプレー)で 商品化されている。