腎細胞がんにも胃薬が効果
広く使われるシメチジン
再発、転移を抑制


 大腸がんの転移抑制効果が注目されている胃薬のシメチジンは、薬が効きにくい腎細胞がんの治療にも効果がありそうなことが分かってきた。腎細胞がんの再発、転移を抑制するらしく、名古屋市立大の戸澤啓一(とざわ・けいいち)講師(腎・泌尿器科学)は「悪性度の高い腎細胞がんほど効果があるようだ」と話している。
 
奇妙ながん

 腎細胞がんは人口10万人当たり2.5人程度が発症し、患者は男性が女性の2-3倍。泌尿器科のがんとしては前立腺がん、ぼうこうがんに次いで多く、超音波やコンピューター断層撮影(CT)などの診断技術の進歩で、最近では早期発見例も増えている。
 ただ治療法は手術がほとんどで、放射線や抗がん剤はまったく効果がない生物学的に奇妙ながんだという。
 戸澤講師によると、腎細胞がんには、手術後15年まではほぼ一定の割合で転移が起き、腎臓を摘出すると転移したがんがまれに自然消滅するなどの特徴がある。
 「現在のところ、腎細胞がんに効果があるとされるのはインターフェロンとインターロイキンだけ。それも効くのは2割程度で、再発、転移の危険が大きいがんの一つ」と戸澤講師は説明する。

併用で効果倍増

 シメチジンは胃酸の過剰分泌を抑えるH2ブロッカーとして1975年に登場し、胃かいようや胃炎の治療に広く使われている。かいようによる胃の切除手術を激減させたことでも知られる。
 実は、以前から腎細胞がんにも効果があるとして、一部では治療に使われてきた。大阪府立成人病センターのデータでは、併用することでインターフェロンの効果が2倍近くに上昇するという。
 なぜ効果が上がるのか。戸澤講師が着目するのは、がん接着分子のEセレクチンの働きをシメチジンが妨害する点だ。
 再発や転移のメカニズムの一つは、血液に入ったがん細胞が血管の内皮細胞に現れるEセレクチンと結合し、血管壁から組織内に侵入することで始まる。接着分子と結合するのはがん細胞の糖鎖シアリルルイスXで、悪性度が高いほどこれが多いことが分かっている。
 腎細胞がんでは、この糖鎖が多く、再発や転移を起こしやすい悪性型は、全体の6
、7割を占めると推定されている。
 さらにシメチジンとインターフェロンの併用で、転移抑制効果はさらに増強されるらしい。

リスクの軽減

 戸澤講師は腎細胞がんが肋骨(ろっこつ)に転移したケースで劇的な治癒例を経験した。患者は74歳の男性。インターフェロンと一日当たり800ミリグラムのシメチジンを服用したところ、ほぼ1年後に転移がんが消失した。
 このため、シメチジンを投与した腎細胞がん患者14人を調べたところ、この糖鎖が見つかった8人全員が5年間再発、転移しなかった。一方、糖鎖が見つからなかった残りの6人は半分が転移して再発した。
 本来、転移しやすい人と、しにくい人とが、シメチジンの服用で逆転することが確認された。
 シアリルルイスXは大腸がんなどでも働いている。国立病院機構東京医療センターの松本純夫(まつもと・すみお)病院長らは、大腸がんでもシメチジンの転移抑制効果を確認した。
 戸澤講師は「手術後1カ月もシメチジンをのめば、腎細胞がんの半分程度で、再発や転移のリスクを軽減できるのではないか」と期待を掛けており、今後、大規模な試験を計画、さらに詳しく調べることにしている。


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