脳に“ペースメーカー”
震えの治療に電気刺激
国内の50医療機関
 自分の意志に反して手足や顔などが震える「振戦(しんせん)」の不快な症状を、脳に小さな電極を入れて抑える「脳深部刺激療法(DBS)」が効果を上げている。神経の伝達回路 を電気刺激で調整する、いわば“脳のペースメーカー”。根治療法ではないが、薬の投与量や副作用を軽減できることも利点で、2000年には医療保険も適用された。国内約50の医療機関が実施しているという。  
▽生活の質が低下
 振戦には、パーキンソン病の症状や脳卒中の後遺症として現れるもののほか、原因となる病気がない「本態性振戦」もある。震えは安静時のほか、動作の際に出ることもあり、食事や字を書くのに不自由したり、しゃべる時に声が震えて生活の質を低下させる。
 パーキンソン病には、減少した脳内の神経伝達物質ドーパミンを補う「Lドーパ」という有効な薬があるが、長期間使うと効きにくくなりやすい。本態性振戦にもベータ遮断薬という薬があるが、重症者には限界があった。
 国内や欧州の一部では、大脳の底部にある視床核を焼く「凝固術」が盛んに行われたものの、「脳の一部を新たに破壊するため、効果が確実な場合以外は踏み切れないことが多かった」(片山容一・日本大医学部脳神経外科教授)という。こうした背景から、脳組織を破壊しないですみ、効果によっては中止することも可能な治療法として研究が進んだのがDBSだ。  
▽効果確認しながら

 DBSの装置は、先端に4つの電極が付いた刺激用の細いリードと、電極に信号を送るパルス発生器、それらをつなぐケーブルで構成される。リードは、頭がい骨に直径一センチほどの穴をあけ、エックス線CTやMRIであらかじめ計測した視床の目標に挿入していく。
 振戦だけで約100例、ほかの病気を含めると約400例のDBSを行っている日大では、手術は原則として局所麻酔で行う。米国では全身麻酔が多いというが、片山教授は「患者に実際に刺激を与えて効果を確認しながら、最も適した部位に挿入することができる。痛みなどはない」と、正確な手術ができるメリットを強調する。
 一方、パルス発生器はあらためて手術をして胸の部分に埋め込む。患者は震えが起きた際、携帯できるスイッチを使い、自分で装置の作動や刺激の強弱を操作できる。
▽90%超に効果
 米国の臨床試験では、DBSはパーキンソン病の振戦を87%、本態性振戦を82%、それぞれ抑制するとの結果が出た。日大でも震えが完全に止まった患者は80%を超え、「満足できる程度に軽減」を含め90%以上に効果があった。
「DBSによって、Lドーパなど治療薬の投与量を減らせたり、使わなくてすむようになるため、副作用も抑えられる。一日のうちで症状の出方に差があるような人にも向く」と片山教授。
 ただし、病気が進行してLドーパが効きにくくなった人にはDBSもあまり効果がない。また、挿入手術が脳出血を誘発する恐れもわずかだがある。
 保険適用になって以降、国内で行われたDBSは約600例という。片山教授は「パーキンソン病など、進行性の病気に長期的な効果があるかどうかは、まだ分からない点もある。脳神経外科と神経内科が連携して患者を管理しながら、評価していきたい」と話している。

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