手術せずに心臓の穴ふさぐ
血管から特殊な栓を挿入
心房中隔欠損症


 心臓の左右の心房を隔てる壁に穴が開いている先天性の心房中隔欠損症。国内での治療は心臓を一時的に止めて行う外科手術が一般的だが、特殊な栓を血管から挿入して穴をふさぐカテーテル治療が昨年から一部施設で始まった。欧米では患者負担の小さいこの治療法が既に主流で、国内でも普及が期待されている。

 成人後に悪化

 岡山大の赤木禎治(あかぎ・ていじ)助教授(循環器疾患治療部)によると、心房中隔欠損症は先天性心疾患の中では心室中隔欠損症に次いで多い。1500人に1人ぐらいに見つかり、大人の先天性心疾患の約5割を占めるという。
 自覚症状がほとんどないのが特徴。学校健診で心臓の雑音を指摘されて見つかることが多い。超音波検査が普及していない時代に育った世代では、大人になり職場健診で心電図の異常を指摘され分かる人も多いという。
 症状は穴の大きさなどで異なるが「小児期は無症状でも30、40代を超えると急速に悪化する」と赤木助教授。不整脈や弁の逆流などが起こり、心不全が徐々に進む。
 穴から漏れた血液が肺に流れるため肺にうっ血が起こるほか、全身への血流も減るため心拍が少し増える。そのような負担が長期間続き、ある年代を過ぎると一気に症状が出るのだという。
 
長期の入院

 症状は急には進まず、自然に穴がふさがることもあるため、赤ちゃんの時に見つかっても小学生前後まで待って治療することが多い。
 その治療法は外科手術がほとんど。右心房を切り開き、特殊な布を使ったり、直接縫ったりして穴をふさぐ。心臓を一時的に止めることが不可欠で、約30年前に人工心肺が開発されたことで可能になった。
 現在ではほぼ安全に行えるようになったが「心臓を止めるのは、やはり大がかりな手術」と赤木助教授。人工心肺の使用に伴うトラブルや、心臓の切開による合併症を完全に防ぐことは難しい。
 入院期間も2―3週間は必要。子供は比較的回復が早いが、大人は日常生活に戻れるまで約1カ月かかるという。

治療の主流に

 これに対し、カテーテル治療の最大のメリットは「心臓を止めなくていいこと」(赤木助教授)。岡山大の場合、月曜日に入院し木曜日には退院できる。全身麻酔は必要だが、治療時間は1時間余り。米国では日帰りで行う施設もある。
 穴をふさぐ栓は、形状記憶合金の細いワイヤを網目状の円盤型に編み込んだ構造。2枚の円盤を中心の軸でつないだ形になっており、細く折りたためる。チューブ状のカテーテルを太ももの付け根から血管に挿入し、その中を通して心臓内に運ぶ。カテーテルの外に出ると自動的に円盤状に広がり、両側から挟んで穴をふさぐ仕組みだ。
 治療後1カ月程度は激しい運動を避ける必要があるが日常生活はすぐに可能。3カ月程度たつと栓は心臓の内膜に覆われて完全に安定する。
 円盤で挟む部分が必要なため、壁の端に寄った穴には使えないが、米国での治験では、治療が必要な合併症の発生率は外科手術よりも低かった。
 国内では関係学会が実施施設の基準を定めており、現在は埼玉医大、国立循環器病センター、岡山大の3施設でしか受けられない。保険適応でないため約110万―120万円の自己負担が必要だ。
 赤木助教授は「欧米は既にほとんどがカテーテル治療になっている。国内でも3―5年で主流になるのではないか」とみている。


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