広がる肺がん胸腔鏡手術
小さな穴開け病巣切除
体の負担少なく早期回復

 肺がん患者の胸に小さな穴を開け、カメラが先端についた胸腔(きょうくう)鏡や、電気メスを入れて病巣を切り取る手術の普及が進んでいる。胸を切り開き患部を直接見て行う手術よりも、体の負担が少なく回復が早いのが利点という。


  ▽痛みや出血少なく
 右肺は上葉、中葉、下葉の3つの部分でできており、やや小さな左肺は上葉と下葉に分かれる。中には大小の気管支が枝のように広がっている。
 肺がんの治療法には、抗がん剤投与や放射線照射もあるが、外科手術が適用されるのは非小細胞肺がんが中心。がんが見つかった葉の切除のほか、病巣だけを部分的に取る場合もある。
 開胸手術では胸の側面を切り開き、あばら骨の間を広げて中を直に見ながら、がんを摘出する。これに対し胸腔鏡手術は、小さな穴を開け、直径5―10ミリの胸腔鏡などの器具を入れて行う。
  これまで千例を超す胸腔鏡手術を実施している北海道がんセンター(札幌市)呼吸器外科の近藤啓史医師は、その利点を説明する。

  「開胸手術では30センチから40センチ胸を切るが、胸腔鏡だと大きくても4センチぐらいの傷が数カ所で済み、手術後の痛みが少ない。6、7日後には退院でき、2、3週間かかる開胸よりも早く社会復帰できる。手術時の出血もずいぶん少なくなります」

▽大量出血の危険も
 胸腔鏡手術は1992年、国立がんセンターで本格的に始まった。94年に早期の肺がんで保険適用となり、2000年には肺がん一般に適用対象が広がった。
 しかし高度な技術が求められ、近藤医師は「血管を傷つけると多量の出血を起こすなど危険が伴うので、誰にでもできるわけではない。標準化された方法はなく、医師の数だけやり方があるようなものです」と話す。
 胸腔鏡のカメラの映像をテレビモニターで見ながらほとんどの措置を行う方法や、開胸手術に近い方法で胸腔鏡は補助的に用いるものなどがある。執刀時の傷の大きさや場所、数もまちまちで「手術時間や成績は医師の腕次第」(近藤医師)。
 北海道がんセンターでは、年間百数十例実施している肺がん手術の9割が、モニターだけを見て進める胸腔鏡手術で、開胸と同じように安全で確実な手術を目指しているという。


▽治療成績同じ
 
同センターでは通常、病巣がある方の胸の側面を3カ所小さく切り穴を開ける。
 組織を縫いながら切断できる自動縫合器や手縫いのための器具を入れ、大小の血管を縛って出血をできるだけ防止。胸腔鏡や電気メス、ピンセットなどを入れて病巣を切り、穴から摘出する。がんの転移を調べるため、状況に応じリンパ節の切除もしている。手術時間は数時間で、開胸と同じぐらいだ。
 これまでに、大きな血管を傷つけ出血するなどして開胸手術に移行したのは約10例、神経損傷は5人ほど。1年半、約2百例の分析では、再発率や五年生存率は開胸の成績と差がなかった。
 胸腔鏡手術の対象は原則として、がんの大きさが3センチ以下。肺が胸壁に強く癒着したり、がんが肺の中枢部に広がっていたりするケースなどは難しい。手術費用だけで約58万円掛かり、開胸手術より約20万円割高になる。
 近藤医師は「モニターでは手術部位を20倍から30倍に拡大できるので、繊細で精度の高い顕微鏡的な手術が可能。上下左右を間違わないように、空間認知をしっかりすることが重要です」としている。


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