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2017.08.22

がん治療薬、遺伝子で探る
数百個を一度に検査
高額費用など課題に

 がんの治療薬選びに役立てるため、患者の数百個もの遺伝子を一度に調べる新しい検査が医療現場で広がり始めた。将来、がん医療を大きく変える手法として期待されるが、保険が適用されていないため費用は高額で、効果的な薬が見つかる確率はまだ低い。結果の開示範囲を巡るルールが確定していないなどの課題もあり、患者への丁寧な情報提供が不可欠だ。

 ▽患者ごとに違い

 千葉県の石橋昭子さん(67)は今年4月、横浜市立大病院でがんの遺伝子検査を受けた。

 昨年、子宮体がんを手術。抗がん剤治療を続けていたが、効果が低くなり薬を変えたところ、強い吐き気などの副作用に悩まされ、治療への気力を失いそうになった。そこへ主治医から同大の検査を紹介された。

 がんは、正常な細胞の遺伝子が変異するために起こる病気。抗がん剤は通常、がんの部位や進行度に基づき、多くの患者で効果が確認された薬が使われる。これが標準治療だ。しかし変異する遺伝子は同じ臓器のがんでも患者ごとに違うため、標準治療では効果が不十分なケースもある。

 一方、近年は、特定の遺伝子変異に働き掛ける新薬が次々に登場している。遺伝子検査の狙いは、標準治療で効果がみられなかった患者に、その人のがんの原因に合った治療薬を探すことだ。

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 ▽2割未満

 石橋さんが受けた同大の検査「MSKインパクト」は、米メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターが開発。がん発症に関わる約490個の遺伝子を調べる。手術で取ったがんの組織と周辺の正常な組織を米国へ送り、比較した結果が約1カ月半で報告される。費用は約60万円。

 見つかった遺伝子変異についての詳細な解説と、米国で承認済みや研究開発中の薬の効果が期待できるかどうかなどが報告される。担当の加藤真吾(かとう・しんご)助教は「解釈には最先端の知識が必要。院内の専門医と協議を重ねた上で、患者さん用の資料を作成して丁寧に説明している」と話す。

 「少しでも何か分かれば」と検査を受けた石橋さん。がん発症に関わる遺伝子変異が複数見つかったが、有効な薬はなかった。それでも「抗がん剤の負担が大きくても今の治療を続ける意味があると分かって、前向きになれた」と振り返る。

 加藤助教は「検査を受けても、現時点では新たな薬が見つかる人は2割に満たない。今後、効果的な薬が開発されれば役立つ情報なので、そうした情報を継続して得られる医療機関で検査を受ける方がいい」と話す。今年6月末までに検査を受けた計13人中、新たな薬の選択肢が見つかったのは2人だった。
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 ▽検討課題

 患者の遺伝情報に基づいて最適な治療を選ぶ「がんゲノム医療」の普及を目指す政府は、こうした検査を将来は保険診療にする方針。現在は一部大学病院などが先行して患者に提供している。

 北海道大、順天堂大、京都大、岡山大などで、横浜市立大のように米国に検査を委託するケースも多く、費用は高額で100万円を超す場合も。自前の検査実施を目指し、研究としてデータ蓄積を進める施設もある。

 検査の拡大には課題も指摘される。例えば、多数の遺伝子を調べると、現在患っているがんとは別の、遺伝性の病気に関する変異が分かることがある。子どもや親族が同じ変異を共有している可能性があるが、こうした結果をどう開示するか、共通ルールはまだない。

 京都大病院がんセンターの小杉真司(こすぎ・しんじ)家族性腫瘍ユニット長は「米国では、予防策のある病気のリスクが高いと分かった場合、家族にも積極的に知らせる。日本でもそうした検討が必要だ」と話す。

(共同通信 佐分利幸恵)