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2017.01.10

「病、それから」
草野厚さん(政治学者)
肝炎ウイルスと四半世紀

 日本の政治や外交に鋭い論陣を張る政治学者の草野厚さん(69)。慶応大教授を退職後、これまでの研究分野を離れ、古墳のフィールドワークをする毎日だ。全国を飛び回る姿からは、四半世紀近くにわたったC型肝炎ウイルスとの闘い、肝臓がんの大手術を受けた「過去」は想像しにくい。

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 通告は突如やってきました。2010年8月30日夜、自宅近くのファミリーレストランでカレーライスを食べていたら携帯電話が鳴り、主治医から「草野先生、横隔膜近くの肝臓に26ミリのがんができています。すぐ手術を」と言われたのです。

▽観念して手術
 「なぜ?」「来るものが来てしまったか」という二つの思いが交錯しました。前者は、その17年前にウイルス肝炎と分かって以降、炎症を抑える注射治療を続け、肝機能の数値は正常範囲だったから。後者は、母も、弟も肝硬変や肝臓がんで亡くしていたからです。

 「お任せします」と観念するほかなかったですね。手術は7時間に及びました。病室で考えたのは、使命感というと大げさですが、早く大学に戻らないと学生たちに申し訳ないということ。2週間で退院し、10月半ばからゼミに復帰しました。

▽出発点見たい
 退院後間もなく、ありがたい話が来ました。私の討論形式の授業(戦後日本外交論)をNHKの「白熱教室JAPAN」という番組で放送しないか、と。正直迷いました。私の授業はイデオロギー色が強く、視聴者から抗議が殺到しそうですし。でも映像の記録に残るという魅力には勝てません。量を増やして行う予定だったインターフェロン治療は、番組の収録まで待ってもらいました。

 教壇を去る数年前から、討論の際に気になることがありました。学生にナショナリズムが高揚している状況です。韓国や中国を嫌う理由を聞いてみると、それほど深い知識に基づくものではない。近現代史をつまみ食いしているんですね。

 何とかしないと、と思う一方で、私自身が国の出発点の古代史をろくに勉強していないと気付き、退職後から本格的に古墳巡りを始めました。これまでに約300基を動画に収めました。何事も突き詰めなければ気が済まない性分ですから。

▽響きの癒やし
 がんを引きずるのではなく「なってしまったものは仕方ない」というある程度の諦めも、順調な回復を後押ししたと思います。巨大な古墳を造った人たちの苦労を考えれば病気なんか小さい。それを確認する旅。忘我の境地でしょうか。同時に、再発して歩けなくなってしまうかもしれない、元気なうちに成し遂げたいと、自分を急がせている面もあります。

 振り返れば、C型肝炎の診断以降、病院通いは生活の一部。病といかに付き合っていくか、でしたね。ウイルスとずっと同居していたわけですから。それも達観につながっているのでしょう。

 支えてくれたのは趣味です。一つはパイプオルガン。仕事が縁で自宅にマイオルガンを持つに至り、教室にも通いました。下手ですが、その響きには癒やされます。

 もう一つは、走ることと格闘技。これは病に勝てる体をつくったかもしれません。今もジムに通い、ボクシングのようなことをしています。気分転換にもなりますね。

 新薬の効果もあり、今年春の検査でウイルスは検出されませんでした。がんには引き続き注意が必要ですが、ウイルスは「ついに退治したか」という感じです。アドバイス?病になっても「療養に専念」との考えは取らないで、と言いたいです。
(文・橋詰邦弘、写真・堀誠)

◎草野厚さん 1947年東京生まれ、東京大大学院修了。慶応大教授を経て2013年名誉教授。日本外交や政策決定過程の分析が専門で「ODAの現場で考えたこと」など著書多数。撮影した古墳の映像をブログ「古墳を動画で見るサイト」で公開中。

◎C型肝炎 血液を介し感染するC型肝炎ウイルスによる肝炎。自覚症状なく慢性化し、20~30年で肝硬変、肝臓がんへと進むリスクが高い。副作用などが問題だったインターフェロンに代わる新薬が近年続々登場し、治療に効果を上げている。