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医療新世紀
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2016.11.22

知って防ごう薬剤耐性菌
身近な治療に影響じわり
適正使用啓発に政府本腰

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 抗生物質(抗菌薬)が効かない細菌、薬剤耐性菌が各国の医療現場で広がり、大きな問題になっている。新しい抗菌薬の開発は低調なため、抗菌薬を「本当に必要なときに正しく使う」適正使用で、耐性菌の出現や拡大を抑えることが大切だ。医療者と市民双方への啓発活動を展開している世界保健機関(WHO)や欧米保健当局に倣い、日本政府も11月から啓発に本腰を入れることを決めた。

▽年70万人死亡
 耐性菌が出現し拡大するメカニズムは完全には解明されていない。だが医療現場で感染症の原因となる細菌を確かめずに安易に抗菌薬を使ったり、治療の途中で薬の服用をやめたりといった不適切な使用を続けると、耐性菌が増え治療が困難になることはほぼ確実だ。

 海外では、既存の抗菌薬のほとんどが効かない強力な耐性菌が急速に広がり、医療に深刻な影響を及ぼしている。英政府が委託した調査チームの推計によれば、耐性菌による世界の死者は年間約70万人に上る。有効な対策が取られなければ、2050年にはこれが1千万人に膨らむという。

 国内でも耐性菌は1980年代以降、免疫が低下した重症患者が多い病院内で深刻な問題になってきた。しかし、免疫で細菌を排除できる健康な人にとっては、それほど大きな脅威とは捉えられてこなかった。

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▽切り札を多用
 だが近年、抗菌薬で簡単に治療できていたありふれた病気が、治りにくくなる例が増えている。

 大半の子どもが3歳までに一度はかかるといわれる中耳炎もその一つ。肺炎球菌やインフルエンザ菌などが原因だが、5~7割が耐性菌という報告もある。このため日本耳科学会などは、軽症例では3日間は抗菌薬を使わずに経過観察することや、使う抗菌薬の種類を絞り込むことを推奨する診療指針を作成した。

 最新の指針の作成委員長を務め、現在は千葉市で耳鼻科医院を開業する工藤典代医師は「10人に1~2人は治りにくい子がいる。原因には複数の要素が絡むが、中でも耐性菌は重要だ」と話す。

 ぼうこう炎を起こす大腸菌も、第1選択薬とされるキノロン系抗菌薬への耐性菌が年々増加。治療の選択肢がじわじわと狭まっている。

 三重大病院の村木優一・副薬剤部長を中心とする厚生労働省研究班は、日本の抗菌薬使用には他の先進国と異なる特徴があるのを見つけた。幅広い種類の細菌に有効な「切り札」的な抗菌薬の使用が多いのだ。

 こうした抗菌薬は、多用すると善玉の細菌まで殺して新たな耐性菌を生むきっかけになる可能性が指摘されている。

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▽「念のため」
 WHOは今年11月14~20日を耐性菌問題の啓発週間と定め、抗菌薬の適正使用や、手洗いなどで感染症を予防する大切さを啓発している。抗菌薬に気軽に頼る風潮はかなり広がっているという。

 日本でも、ウイルスが原因である風邪の多くに抗菌薬が処方されているとの研究がある。国立国際医療研究センター病院(東京)の大曲貴夫・国際感染症センター長はその背景をこう解説する。

 「医師は心情的に、熱の原因がはっきりしない患者さんをそのまま帰しにくい。もし細菌が原因なら悪化するかも...と考えるからだ。結果として『念のため』と抗菌薬を処方することになる」
 患者にも「抗菌薬があれば安心」という意識はある。これをどう変えていけばいいのだろう。

 「医療側は、細菌感染を疑ったら必要な検査をした上で最小限の処方をする、患者側も『それは何の薬?』と自分の医療の中身に関心を持つ。そこから少しずつ進めていくしかないのでは」と大曲さんは話す。
(共同通信 吉本明美)