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医療新世紀
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2015.03.17

人工内耳に新タイプ登場
2種の刺激で音聞き取る
残存聴力も失わず


 従来は人工内耳手術の対象外とされた、聴力が一部残っている人のための「残存聴力活用型」と呼ばれる新しい人工内耳が登場した。補聴器の機能も併せ持っており、2種類の刺激で音を聞き取るのが特徴。健康保険も適用される。
 ▽手術で傷む
 耳の奥にある内耳は、外耳、中耳を経て届いた音の振動を、電気信号に変えて聴神経に伝える器官だ。その役割を担うのが渦巻き状の「蝸牛」。
 人工内耳は、障害された蝸牛の機能を代替する医療機器で、マイクで拾った音を電気信号に変換し、蝸牛に差し込んだ細長い電極に送ることで聴神経を直接刺激する。国内では年間600人超が人工内耳を埋め込む手術を受けているという。
 ただ、通常の電極は材質が硬いうえ、挿入時に蝸牛の骨に穴を開ける手術法が一般的だった。手術で蝸牛が傷むことは避けられないため、日本耳鼻咽喉科学会が定める手術の対象は、聴力レベルが両耳とも90デシベル以上の重度難聴者に限定されていた。難聴は数字が大きいほど重く、90デシベルとは耳元でないと大声も聞き取れないレベルだ。
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 ▽負担少なく
 一方難聴には、小鳥のさえずりや家電のアラームなどの高い音は全く聞こえないのに、トラックのエンジン音のような低い音は分かるというタイプがある。こうした人たちは会話も非常に不便だが、補聴器ではカバーできず、結局、難聴が悪化するまで人工内耳の埋め込みを待たなければならなかった。
 新しい人工内耳はこのタイプの難聴が対象。耳掛け式のマイクで集めた音を高さ(周波数)によって分け、高音は電気信号として蝸牛内の電極へ、低音は増幅した音声として外耳に送る。人工内耳と補聴器の合体版と言える。
 「これが使えるようになったのは、体への負担が少ない電極と、それを生かす手術法が開発されたため」と解説するのは、信州大 の宇佐美真一教授(耳鼻咽喉科)だ。
 電極は先端の最大径が0・5ミリと細くしなやか。手術は蝸牛の骨に穴を開けずに、蝸牛にもともとある小さな窓を活用し、その膜から電極を差し込む。内耳の炎症を防ぐステロイドを投与することもポイントという。
 開発された欧州で既に承認を受けていたことに着目した宇佐美さんらの申請を受け、2010年に国が先進医療として承認。信州大などで成人計24人の手術を実施した結果、人工内耳使用時の聞く能力が向上した上、低音部の残存聴力も、若干低下したものの失われずに保たれた。
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 ▽保険適用
 この人工内耳は13年9月に薬事承認され、昨年7月には健康保険が適用された。
 手術は全身麻酔で2~3時間。耳鼻咽喉科学会は、対象患者の聴力レベルや聞き取り能力をガイドラインで詳細に設定したほか、手術で残存聴力が悪化するリスクを十分理解し受容していることなども条件とした。手術は今後50例まで全例登録し、残存聴力への影響に重点を置いて2年間追跡することになっている。
 課題は何だろうか。人工内耳に詳しい虎の門病院 (東京)の熊川孝三・耳鼻咽喉科部長は「効果に個人差があることや全身麻酔のリスクなど、通常の人工内耳と同様の課題に加え、医療機関は、装置やリハビリなどでより専門性が問われることになる」と指摘する。
 人工内耳は手術して終わりではなく、脳が人工内耳の刺激に慣れるまで、成人で平均数カ月のリハビリが必要。言語聴覚士が指導するが、新タイプでは当初、違った種類の音が混在して聞こえることもあり、よりきめ細かいフォローが必要になりそうだ。(共同通信 吉本明美)