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医療新世紀
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2014.10.07

薬物依存の治療広めたい
ワークブック方式に注目
精神神経センター開発

 依存性が強い危険ドラッグが広がり、治療をどうするかが重要な課題になっている。薬物依存症の専門医療機関は少なく、十分な治療を受けられない例が多いからだ。そうした中、専門機関以外も取り組みやすいワークブック方式の治療プログラムが注目されている。
 ▽睡眠薬を抜く
 全国の精神科を対象にした厚生労働省研究班の定期調査によると、薬物依存の原因物質は近年ずっと覚せい剤が最多。
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だが最新の2012年に初めて調べた危険ドラッグが、睡眠薬などの薬物を抜き2位に入った。
 埼玉県立精神医療センター では13年度、外来、入院とも危険ドラッグが覚せい剤を上回った。成瀬暢也副病院長は「私が診た危険ドラッグ乱用者の8割は依存症だった。摘発だけでは不十分なことが明らかで、いかに依存症の治療につなげていくかが重要だ」と言う。
 だが国内の薬物依存症の治療体制は貧弱だ。国立精神・神経医療研究センター 薬物依存研究部の松本俊彦室長によると、専門医療機関は全国に10カ所程度。日本は違法薬物の取り締まりが厳しいため乱用者が先進国の中でも際立って少なく、薬物対策として欧米で進んできた「治療」への取り組みが大きく遅れた。
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 ▽スマープ
 幻覚などの急性薬物中毒症状は、一定期間の入院治療で消えることが多い。しかし薬物を渇望する依存症の根本は治っていないため、退院後に再び薬物を使ってしまう「再発」を繰り返し、依存の度合いは悪化する。
 「何とかできないか」と考えた松本さんらは06年、米国で効果を挙げていた認知行動療法を手本にワークブック方式の治療プログラムを開発。薬物依存症再発予防プログラム「SMARPP(スマープ)」と名付けた。
 認知行動療法は、自らの考え方や行動パターンの問題点を振り返り、修正法を学ぶ精神療法の一種だ。スマープでは、薬物を使いたくなるのはどんな時か、誘惑をどう避ければいいかなどを、4カ月以上をかけ、依存症に悩むほかの患者や医療者と一緒に考えていく。
 ワークブックの内容を丁寧に追っていくことで、依存症治療の経験が浅い医療スタッフも、患者との会話をリードしやすい構成になっている。
 松本さんが調べたところ、医師との面接を基本とする従来型の依存症治療を実施していたある病院では初診の3カ月後に65%が治療から脱落したのに対し、スマープの3カ月後の治療継続率は90%を超えていた。
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スマープや、それを基に作成したワークブックを治療に活用する医療機関も少しずつ増えてきた。
 ▽慢性疾患
 治療継続イコール完全断薬というわけではない。スマープを発展させたLIFE(ライフ)というワークブックで治療に取り組む成瀬さんは「依存症者は人と信頼関係を築くのが難しく、生きにくさを薬の『酔い』で紛らわそうとする人たち。根底に人間関係の問題がある」と話す。
 ワークブックはツールの一種であり、薬物を再び使ってしまったことも含め安心して語り合える仲間と居場所を得たことの方が本当の効果につながるという。成瀬さんらの調査では、薬物を完全には断てないままでも治療に9カ月以上継続参加した人の62%はその後断薬に成功し、治療期間が短い人の断薬率(25%)を大きく上回った。
 「依存症は糖尿病や高血圧と同じ慢性疾患の一種と捉えるべきだ」と成瀬さんは言い、松本さんは「治療の場に長くつながっていることが依存症からの回復に有効であることは欧米でも証明されている。ワークブック方式の利点を生かし、受け皿をもっと増やす必要がある」と指摘する。(共同通信 吉本明美)