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医療新世紀
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2014.03.11

重度難聴の子に豊かな音を
人工内耳で言葉習得
早期の手術で効果


 赤ちゃんは周囲の話し声を聞いて自然に音声言語(話し言葉)を習得する。このため生まれつき聴覚に重い障害があると言葉の発達が妨げられ、コミュニケーションや学習など、さまざまな面で問題が生じてくる。そんな重度難聴児に音を取り戻してくれるのが人工内耳だ。音を増幅するだけの補聴器と違い、内耳に挿入した電極で聴神経を直接刺激する。機器の性能は向上し、手術の低年齢化も進んでいる。
 ▽障害という現実
 神戸市に住む主婦Kさん(38)が書きためた10冊のノート。長女Aちゃん(9)が右耳に人工内耳を装着する手術を受けた2歳3カ月から小学校入学まで、言葉の発達を克明に記録したものだ。
 手術前には「あーあーあー」としか言えなかった。それが3歳の誕生日が近づくと「ママ、しゅっぱつ、はやく」「ピンク、ふく、かわいいね」と三語文も話せるようになった。「日増しに手応えを感じ、娘との会話が楽しくなりました」。20140311kao.jpgKさんは笑顔で振り返る。
 Aちゃんの難聴が分かったきっかけは、生後間もなく産院で受けた新生児聴覚スクリーニング検査だった。精密検査を勧められ、市内の大きな病院で受診すると「重度の難聴」と診断された。
 「病院からの帰り道、涙があふれて車を運転できなかった。何かの間違いだと思いました」
 最初は補聴器を使っていた。だが、呼んでも振り向かない。どんな音にも反応しない。次第に障害が現実のものとして感じられるようになった。
 ▽千人に1人
 ある日、人工内耳を装着した男児のビデオを見た。「流ちょうに話す姿に、初めて希望を持てました」。Kさんと夫(38)は手術を決意した。
 手術を担当した神戸市立医療センター中央市民病院 の内藤泰・耳鼻咽喉科部長によると、両耳に難聴を抱えて生まれる子どもは約千人に1人。遺伝や、サイトメガロウイルスの母子感染、内耳奇形などが原因だが、理由が分からないものも4分の1ほどある。
 多くは新生児聴覚スクリーニング検査で見つかるが、任意検査のため受診率は60%程度にとどまる。20140311honki1.gif検査を受けなかった場合、親は「おとなしい子」「よく寝る子」などと思い込み、なかなか難聴に気付くことができない。発見が遅れて一定年齢を超えると、話し言葉の獲得は難しくなる。
 特に90デシベル(耳元での大声程度)以上でないと聞こえない重度難聴は、高出力補聴器も効果が期待できず、手話に頼るか人工内耳を使うしかない。
 ▽広がる世界
 人工内耳は、耳に掛けたマイクで拾った音をデジタル信号に変換し、側頭部に付けた装置から頭皮下に埋め込んだ装置に無線送信する。頭皮下の装置がこれを電気信号に変え、内耳の蝸牛に挿入した電極に送ると、聴神経が刺激されて脳で音が認識される。20140311honki.jpg小型化が進み、騒音下でも聞き取りやすくなるなど、機器の進化は目覚ましい。
 手術には健康保険が使える。全身麻酔で2~3時間。感染や、顔面神経を傷つけてまひを起こすリスクがあるが、頻度は非常に低いという。手術後は聴覚や言語を発達させるため、言語聴覚士による訓練が行われる。
 今年、手術の対象年齢が従来の1歳6カ月以上から1歳以上へと引き下げられた。「手術が早いほど言葉の習得に有利。将来の可能性も広がります」と内藤さんは話す。
 Aちゃんは5歳になったころ、左耳にも人工内耳を装着した。音を立体的に感じ取れる両耳への装着により、世界はさらに広がった。聾学校ではなく普通の小学校を選択し、進学塾にも通う。
 「大きくなったら、テニスの選手か看護師さんになりたい」。はっきりした言葉で夢を語った。(共同通信 赤坂達也)