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医療新世紀
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2013.12.17

回復の可能性伝えたい
「内側」から見た脳卒中
言語聴覚士の関啓子さん


 脳の血管が詰まったり破れたりする脳卒中の後遺症は手足のまひがよく知られているが、失語症や注意障害などの「高次脳機能障害」にも多くの人が苦しんでいる。この障害のリハビリを専門とする言語聴覚士関啓子さん(61)は約4年半前に脳卒中を発病、30年近く研究してきた疾患を自ら体験した。回復を果たした今は「内側」から見た病気の実像と、脳が持つ回復力の大きさを講演で語っている。経験をリハビリ支援に生かしたいと意気込む関さんに聞いた。
20131217honki.jpg ▽最初の幸運
 「どうぞこちらにお座りくださいね」。そうほほ笑む関さんの発話は滑らかで、聞いた単語をおうむ返しにするのがやっとだったという発病直後からの劇的な回復がうかがえる。利き手の左手にはまひが残り、生活の不便はあるが、日々の努力で「今も少しずつ改善している」という。
 発病は2009年7月。神戸大教授として単身赴任中だった関さんは神戸市の繁華街で突然倒れ、救急車で運ばれた。
 脳の右半球にある太い動脈に血の塊が詰まった脳梗塞。発見が早く、脳血流を再開する治療を専門病院ですぐ受けられたのが最初の幸運だった。
 それでも左半身のまひ、しびれなどの感覚障害に加え、多くの高次脳機能障害が現れた。中でも「左半側空間無視」と呼ばれる障害が重いことが分かった。
 ▽気付きが回復促す
 無視とは、脳の損傷側と反対側への注意がおろそかになる症状。視覚では捉えているのに気付かないため、衝突やけがなどの危険がある。実は関さんは長年、無視を研究してきた。通常は慢性化しやすい症状だが、発病後約1週間という短期間で急速に改善した。
20131217honki2.gif 何が良かったのか。「知識、病識、意識の三つがあったこと」だと関さんは分析している。
 どんな症状かという知識、自分にその症状があるという病識、そして自分の注意がおろそかになる側に気を配ろうとする意識。関さんは、発病直後に両目が右に向く、左半側空間無視に特徴的な症状が出たことを自覚し「病院のリハビリ時間外にも意識的に注意を左に向ける訓練を続けた」。
 「症状への気付きとあきらめない態度。これを早い段階から患者さんに持ってもらうことがリハビリに良い影響を与える」と関さんは考える。
 ▽可能性信じ努力
 自分は恵まれたケースだと認めつつも、関さんは「多くの患者さんを通じて脳の復元力の素晴らしさを学び、それを引き出すリハビリの力も信じていた。あきらめずに素直に実践しているのが大きいと思う」と話す。
 講演では自らのリハビリのこつも紹介する。自分の状態を発症前と比較しない、不便を克服する工夫をゲームのように楽しむ―などのほか、20131217honki1.jpg動作する際はまず具体的なイメージを持ち、実際の動きは鏡で客観的にチェックすることも勧める。
 病気の詳しい経過を「『話せない』と言えるまで 言語聴覚士を襲った高次脳機能障害」(医学書院、2625円)にまとめ13年2月に出版。同時期に東京都三鷹市のマンションの一室を活動の拠点に定め「三鷹高次脳機能障害研究所」と名付けた。
 自らの経験に基づく助言を医療者や患者、家族に伝え「一人でも多くの回復に役立てたい」と話している。問い合わせは同研究所ホームページ(http://brain-mkk.net)から。
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 せき・けいこ 東京生まれ、国際基督教大卒。82年から高次脳機能障害の研究、臨床に従事。神戸大助教授を経て02年同大教授。11年に退職し客員教授に。夫和義さん(61)と東京在住。(共同通信 吉本明美)