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医療新世紀
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2013.09.10

イメージだけでまひ改善
大阪大と森之宮病院
ニューロフィードバック

 指を折り曲げる動作をイメージするだけでまひが改善する―。脳卒中の後遺症に苦しむ患者にとって夢のような話が、近赤外分光法(NIRS)を使った「ニューロフィードバック」と呼ばれる治療法で実現するかもしれない。まだ臨床研究の段階だが、自ら手足を動かすのが難しく、従来のリハビリでは効果を得にくかった重症者でも受けられ、機能改善も実証されつつある。
 ▽棒グラフ
 「がんばって、がんばって」。医師が声をかける。先進的なリハビリで知られる大阪市城東区の森之宮病院 。患者は両手を組んだまま親指から順に指を折る動作を思い浮かべる。5秒後、医師の「楽にして」の声を合図に想像をやめる。その作業を10分ほど繰り返す。
20130910honki.jpg この間、患者の目の前の画面に表示された1本の棒グラフが上がったり下がったり。頭にかぶったヘルメット型の装置には32個の検出器が差し込まれており、3センチ四方ごとの脳表面(大脳皮質)の血流変化から脳の活動部位を計測している。
 大脳の運動野では手足のどこを動かすかによって活性化する部位が決まっている。脳卒中や交通事故で脳が損傷し神経回路が断たれると、動作をイメージしても適切な部位が活性化しなくなる。この状態で無理にリハビリをしても、機能は十分に改善しない。
 新手法は、計測された脳の活動をリアルタイムに評価して患者に示し、正しい活動のパターンになるまで修正を促す。正しいパターンを繰り返し強化していけば、機能もおのずと改善に向かうというわけだ。
 ▽簡便なNIRS
 棒グラフは期待された脳の活動ができれば上昇し、間違っていれば下がる。動作中の光景ばかり思い描いて視覚をつかさどる別の部位が活性化したり、力んで余計な部位まで働いたりした場合には、グラフは思うように上がらない。グラフが高い位置で推移すれば、うまく課題がこなせていると実感できる。
 脳の活動部位を知るには、機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)を用いる方法もあるが、装置が大がかりで、測定中は安静にしなければならない制約があった。その点、NIRSは簡便でランニングコストも低い。大阪大の三原雅史特任助教は森之宮病院と共同で臨床研究を実施、今年2月、成果が米科学誌「ストローク」に掲載された。
20130910honki1.jpg 三原医師らは発症3カ月以上の片まひ患者10人にニューロフィードバックを施し、同じ装置を使ってでたらめな評価を示して作業をさせた対照群と手指の機能の改善状況を比較した。すると14点満点のスコアで2点近く上回り、明らかな改善効果が認められた。
 ▽追い風も
 大阪府泉大津市の市川ヨシ子さん(61)は今年1月、脳梗塞を発症。朝目覚めると体が動かず、ろれつも回らなかった。右半身のまひで1カ月後に森之宮病院に転院。夫に勧められ、週3回、2カ月間の臨床研究に参加した。独立して動かなかった指が順に折り曲げられ、腕も肩から頭上まで伸ばせるようになった。
 市川さんは「知らず知らずにできている実感がある」と喜ぶ。正しいイメージのこつさえつかめば、装置がないところでも練習は可能だ。市川さんは寝る前につらくないリハビリにいそしむ。
 2006年度の診療報酬改定で、脳血管疾患の場合、公的医療保険が適用される上限日数は180日と定められた。慢性患者が治療を十分に受けられないなど、リハビリをめぐる事情は厳しい。
 一方、国は本年度から「脳科学研究戦略推進プログラム」の一環でニューロフィードバック実用化に直結する研究の支援を本格化させるなど、追い風も吹く。三原医師は「臨床研究はいったん休止しているが、今秋にも手のまひ以外の症状に対しても効果を確認する研究を始めたい」と話す。(共同通信 真下周)