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医療新世紀
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2013.08.20

命の尊厳、治療拒否に葛藤
「親と一緒に悩んで」
病気や障害ある赤ちゃん

 病気や障害がある赤ちゃんの治療を、親が拒んだら医師はどうするべきか。日本周産期・新生児医学会 は7月、こんなテーマのシンポジウムを横浜市で開いた。家族の意向と、命の尊厳のはざまで揺れる医療現場の苦悩が浮かび上がった。
 ▽ミルクも拒否
 関東地方の病院では数年前、妊娠23週に500グラム台で生まれ、新生児集中治療室(NICU)に入った赤ちゃんが脳出血を起こし、水頭症を発症した。脳圧を一時的に下げる手術をし、知的障害が出る可能性を医師が説明すると、両親は以降の治療中止を希望した。
 「障害が残るなら治療しないでほしい。子どもが一生苦しむことになり、かわいそう」というのが両親の考えだった。
20130820honki.gif 病院側は児童相談所に報告、医療チームが親と面談を重ねた。
 子どもに必要な治療を親が拒む医療ネグレクトでは児童相談所が介入し、親権喪失・停止など法的措置を取った上で治療が行われることもあるが、判断の難しさもあり件数は多くない。このケースでも法的措置は取られなかった。
 生後5カ月。両親は面会に来なくなり、赤ちゃんへの輸血や手術、点滴までも拒否、ミルクも与えないよう頼んだ。
 赤ちゃんは目をきょろきょろと動かし、懸命に生きている。医療チームは「倫理的に最低限の線は譲れない」とミルクを与え続けた。
 生後12カ月で肝臓に腫瘍が見つかった赤ちゃんは積極治療を受けることなく、その3カ月後に死亡した。早期に治療すれば治る可能性があった。
 ▽人道的見地
 関西地方の病院では、生まれつき横隔膜に穴があいていて手術が必要な赤ちゃんがいた。妊娠36週で出生。指など体の複数箇所に形態異常があった。両親にはこれらを見てもらったが、横隔膜の手術には直接の影響がなく、情報がそろった段階で専門の医師から説明する予定としていた。
 両親の承諾を得て手術が実施され、その後、染色体異常や遺伝性疾患に詳しい医師が「非常にまれな奇形症候群で知的障害が出る可能性がある」と説明すると、両親はその後の一切の治療を拒み、併発した腸閉塞の手術も承諾しなかった。母親は「悪い話を小出しにされると耐えられない。まだ隠しているのでは」と不信感を口にした。
 腸閉塞で苦しむ赤ちゃんを前に、担当の小児外科医は「手術すれば治るのに、苦しませて死なせるわけにはいかない」と承諾なしで手術に踏み切った。極めて異例だが、人道的見地からの対応だったという。
 赤ちゃんは心臓の病気もあり、肺高血圧の原因になっていた。手術すれば人工呼吸器を離脱できる可能性があったが、緊急性はなく、親の意向に反してまでは実施しなかった。赤ちゃんはその後、肺高血圧による呼吸循環障害で死亡した。
 小児外科医は「母親に産後のうつ状態や、子どもへの愛着形成につまずきがある場合は、治療拒否をしてしまう可能性がある」と指摘。「急速に病状が進む場合など、法的措置を取るかどうか児童相談所の判断を仰ぐ余裕がない場合は、主治医が倫理的な判断を迫られる」と話した。
 ▽正解なく
 最初のケースを発表した医師は「一人一人の人生観で医師の意見も分かれる。臨床面で個々のケースへの対応を判断する倫理委員会が必要だ」と強調。別の若手医師は「さまざまな意見があるということを医師が両親に伝え、一緒に悩むことで信頼関係を築けるのではないか」と語った。
 シンポに参加した関東地方の小児科医は「『親は子の側に立っている』と考えて両親の意向を最大限尊重するしかないが、どこまで許されるのか。正解はなく、症例を積み重ねて議論を続けていくしかない」と話した。(共同通信 金子美保)