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医療新世紀
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2012.06.26

人工栄養見直しの動き
胃ろうなど中止選択も
専門家がガイドライン

 体が衰えて口からの食事ができなくなった患者の体内に、器具を使って流動食や水分を送り込む「人工栄養」の在り方を見直す動きが広がっている。回復が望めない患者を人工栄養で長期延命することが、本人や家族に苦痛を与えているのではないかという医療現場の戸惑いが背景にある。人工栄養の中止を選択肢に加えた指針の普及を目指す専門家の活動も始まった。
  2012.0626kao.jpg ▽患者は幸福か
 東京大死生学・応用倫理センター の会田薫子特任准教授(医療倫理学)によると、人工栄養は血管から点滴で注入するタイプと、管を使って胃腸に直接入れるタイプがある。管を使う場合はさらに、鼻から入れる「経鼻栄養」と、腹部に開けた小さな穴を介して胃に直接送り込む「胃ろう」に分けるのが一般的だ。
 特に1979年に米国で始まった胃ろうは、局所麻酔による10分程度の処置で、確実に栄養が送れるようになるため世界的に導入が拡大。日本でも在宅介護の増加などで需要が高まり、2000年ごろから急速に普及しだした。
 ただ、胃ろうを回復が見込める患者への一時的な処置とみなしている欧米と比べ、日本では脳卒中などの病気で意思疎通ができなくなった高齢患者らの延命に用いられる場合が多い。意識がないまま何年にもわたって介護を受ける生活が続くことがあり、会田さんは「人工栄養の継続が、患者本人や家族にとって本当に幸福かどうか疑わしいケースが出てきている」と指摘する。
2012.0626honki.gif ▽困惑する医師
 会田さんが10年に日本老年医学会所属の医師を対象に実施したアンケートの結果は、人工栄養での延命に複雑な気持ちを抱える医療現場の姿を浮き彫りにした。
 回答した約1600人の医師のうち、患者に人工栄養を施した経験があると答えたのは68%。その44%に当たる約460人が、いったん導入した人工栄養を中止した経験があると答えた。
 中止理由を複数回答で尋ねると、最も多かったのは肺炎や下痢などで続けられなくなったとの答えだったが、患者家族が中止を強く望んだとした医師が約200人いた。また約100人は、医師として人工栄養が患者の苦痛を長引かせると判断したと答えた。
 一方、人工栄養の中止は患者の死につながることから、 実施経験者の約30%は法的な問題への懸念を示した。マスコミに報道されて騒ぎになることを恐れると答えた医師も多く「現場の困惑と苦しみは深刻」(会田さん)だという。
 ▽死生観の反映
 医療現場の現状を踏まえ、日本老年医学会 の専門会議は3月、人工栄養などの延命処置を高齢者の治療に用いる際のガイドラインを公表した。患者本人のためにならない恐れがあると判断された場合は、本人や家族らの意思を確認した上、延命治療を実施しなかったり中止したりすることを認めているのが特徴で、例外なく延命に全力を尽くすことを前提としてきた医療現場の常識から大きく踏み出した。
 同学会はまた、ガイドラインの趣旨に賛同する弁護士や大学教授など20人を超える法律家のリストも公表。治療の中止に法律上の問題がないとの見解を強調した。
 専門会議で法学者の立場からガイドラインづくりに参加した東京大の樋口範雄教授(医事法学)は「例えば米国では、どこまで治療するかを決定する権利はまず患者に、患者が難しい場合は家族ら身近な人々にある」と説明。「人それぞれの価値観や死生観が反映できる終末期医療とはどういうものか、日本人はあらためて考えるべきだ」と話している。(共同通信 菊池太典)