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2012.02.28

まれな膵がんに初の治療薬
国際治験で効果証明
進行患者に恩恵

 一口に膵臓がんと言っても、実は、さまざまな種類がある。80%以上を占めるのは膵液を運ぶ膵管の細胞から発生する膵管がんで、通常、膵臓がんといえばこれを指す。一方、米電子機器大手アップルの前最高経営責任者(CEO)で昨年10月に亡くなったスティーブ・ジョブズ氏がかかったのは、1%程度とまれな「膵神経内分泌腫瘍(pNET)」だった。これまで日本では、このがんに対する治療薬が無かったが、昨年12月、初めて「エベロリムス」(成分名)が承認された。
2012.0228honki.jpg ▽切除不能
 広島県に住むA子さん(52)が左腰に痛みを感じたのは2005年3月だった。単なる腰痛だと思い、整形外科を受診したり整体に通ったりしたが、痛みは次第に強くなり、階段が上れない、家事ができないなど、生活に支障が出始めた。
 06年11月、整形外科で受けた磁気共鳴画像装置(MRI)の検査で、腰椎に異常が発見された。総合病院で詳しく調べた結果、思いもよらぬ診断が下った。膵臓がん。既に多発肝転移、リンパ節転移、骨転移を起こしており、切除不能と告げられた。さらに1週間後、組織検査でpNETであることが判明した。
 「大変なショック。病名も聞いたことがなく、とても不安でした」とA子さんは振り返る。
 従来の抗がん剤で治療が行われたが、本来はpNETへの適応がない薬ばかり。その抗がん剤でさえ使える薬がなくなったころ、エベロリムスの国際共同治験への参加を九州大から打診された。
 ▽分子標的薬
 神経内分泌腫瘍(NET)は、神経細胞や内分泌細胞から発生する腫瘍の総称で、消化器や呼吸器などさまざまな臓器にできる。このうち膵臓の内分泌細胞であるランゲルハンス島から発生するものをpNETと呼ぶ。
 膵臓は、胃や肝臓など多くの臓器に囲まれているため、がんが発生しても見つけるのが非常に難しい。発見時には手遅れというケースが多く、難治がんの代表とされる。
 伊藤鉄英・九州大病態制御内科学准教授によると、日本人の膵臓がんに占めるpNETの割合は1・1%。国内で治療を受ける患者は年間3千人前後で増加傾向にある。
2012.0228honki1.jpg 治療は手術が基本だが、進行していると完全な切除ができず、もはや治療の選択肢は無いというのが実情だった。そこで期待されるのがエベロリムス。がん細胞だけを攻撃して正常細胞へのダメージを少なくする「分子標的薬」の一種だ。
 ▽進行抑制
 エベロリムスは、がんの増殖や成長、血管新生にかかわる「mTOR」というタンパクの働きを選択的に妨げる。既に「根治切除不能または転移性の腎細胞がん」に対する治療薬として日本でも10年4月から使われており、今回、pNETの効能追加が承認された。
 国際共同治験には、A子さんら日本人40人を含む410人の進行pNET患者が参加した。
 結果は、エベロリムスを投与した群はプラセボ(偽薬)を投与した群に比べ、無増悪生存期間(腫瘍が進行せずに生存している期間)の中央値が4・6カ月から11・0カ月に延長。がんの進行リスクも65%減少した。日本人に限ると、無増悪生存期間は2・83カ月から19・45カ月へと、さらに延長幅が拡大した。
 一方、副作用としては皮疹や口内炎、感染症、爪の障害、鼻出血、間質性肺炎などが多かった。
 伊藤准教授は「進行pNET患者の標準治療になりうる。多くの患者さんに恩恵をもたらす」と大きな期待を寄せる。
 治験以来3年半、エベロリムスの錠剤を飲み続けているA子さん。さまざまな副作用も経験したが、治療自体は順調だ。「この薬を使えたことは幸運でした。ただ、最終的には進行を抑えるだけでなく、根治できる治療法を望みたい」と語った。(共同通信 赤坂達也)