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医療新世紀
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2012.01.31

痛みを招く手の酷使
楽器演奏で高頻度
音楽家外来で治療を

 もっと良い演奏をしたい。その一心で励んだ楽器の練習が、手に過度の負担を強いて、痛みなどの障害を引き起こすことがある。特に高度な技術が求められ、手を酷使するプロの演奏家は、人知れず悩んでいる人が少なくないという。大事な手にメスを入れたくない、練習を休んで演奏レベルを下げたくない―。そんな願いに応える「音楽家専門外来」がある。
 ▽激痛で目覚め
 「左手首に痛みを感じ始めたのは昨年5月。自宅近くの整形外科で、けんしょう炎と診断されました」。名古屋市を拠点に演奏活動を続けるピアニストの真紀さん(52)=仮名=は、不安に揺れた日々を振り返る。
 症状は次第にひどくなり、朝方、激痛で目が覚めるほどに。「手首が曲げられず、お皿も洗えない状態でした」
 演奏会の仕事はすべて断った。大学でのピアノ指導は左手を使わずにこなした。指の繊細な動きが失われるのではという心配から、注射による治療を何とか避けようと、整体やマッサージにも足しげく通った。だが、治らなかった。「もう、ステージには立てないのかなと思い詰めました」
2012.0131kao.jpg そのころ人づてに知ったのが、昨年6月に開設された東京女子医大青山病院 整形外科の音楽家専門外来。宇都宮大工学部教授も務める担当の酒井直隆医師は、1984年に横浜市立大病院で日本初の専門外来を開き、国内外の1500人以上を診療した実績があった。7月下旬、真紀さんはすがる思いで受診した。
 ▽オクターブ
 「演奏家に手の障害がどのくらい起きているのか、国内の実態はよく分かりません。故障があれば、ほかの人に取って代わられ、演奏の場を失いかねない。調査しても本音を言わないのです」と酒井さん。ただ、海外では半分以上との報告もあり「高頻度であることは間違いない」と話す。
 演奏人口の多いピアノは患者も多い。酒井さんのデータでは、ピアニストに最も多いのはけんしょう炎で31%。次いで筋肉が骨にくっついている部分が炎症を起こす付着部炎(24%)、筋肉痛(16%)の順だ。
 一方、原因となったテクニックを調べると、親指と小指を広げて鍵盤をたたくオクターブ(43%)と和音(32%)が圧倒的に多く、意外にも、指を強く打ちつけて大きな音を出すフォルティッシモは8%にとどまった。
2012.0131honki.jpg 「痛みの大部分は、関節を動かす筋肉や腱の炎症です。特に指を広げた状態での打鍵は手を痛めやすい。無理をせず、手をいたわりながら練習することが大切です」と酒井さんは助言する。
 ▽注射1回
 専門外来での治療は、毎日の練習を休まずに治すことを大原則にしている。プロにとって技術の低下は死活問題。アマチュアでも、音大受験やコンクール出場で、練習を休めない場合がある。
 けんしょう炎では、麻酔剤と抗炎症剤の混合液を患部に直接注射する。発症後間もなくなら、1回の注射で治ることもある。塗り薬や貼り薬を併用し、症状によっては痛み止めを内服する。手術はほとんど必要ない。
 付着部炎などでは注射もしない。手の筋肉のストレッチや貼り薬、塗り薬、内服薬で対応する。
 注射を避けていた真紀さんだが、演奏家の手を熟知する酒井さんを信頼し、2週間の間隔で2回の注射を受けた。8月下旬にはほぼ元通りに弾けるようになり「秋の演奏会シーズンに間に合って助かりました」と話す。
 酒井さんは「重要なのは、いかに予防するかです。中でも演奏前のストレッチは大切。十分にケアをして、思い切り練習してほしい」と呼び掛ける。(共同通信 赤坂達也)