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医療新世紀
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2011.05.31

アジア条虫症発生相次ぐ
 レバーの生食で感染
  国内定着の可能性

 これまで日本には分布しないと考えられていたサナダムシの一種「アジア条虫」に感染した患者が昨年6月以降、関東地方の1都5県で計15人確認された。この寄生虫は主に豚を中間宿主とし、幼虫が寄生した肝臓(レバー)を生食したり、加熱不十分な状態で食べたりすると感染する。患者はいずれも海外の流行地への渡航歴が無く、国内にアジア条虫が定着している可能性も出てきた。
 折しも、生の牛肉を使ったユッケを食べ、腸管出血性大腸菌O111に感染した集団食中毒事件が不安を広げている。専門家は「生肉にはさまざまな感染の危険が潜む。必ず加熱して食べるべきだ」と警鐘を鳴らす。20110531honki1.jpg
 ▽渡航歴なし
 昨年6月上旬、千葉県に住む男性(58)が、地元の医院からの紹介で都立墨東病院 の感染症科を受診した。男性は中村ふくみ医長に「大便に白いきしめんのようなものが混ざり、最初は食べ物のかすだと思っていた。ある日、割り箸でつついたら動いた。驚いて医者にかかったら、無鉤条虫か有鉤条虫の感染と診断された」と説明した。
 無鉤条虫も有鉤条虫もサナダムシの仲間で、それぞれ牛や豚の肉から感染する。日本人は海外で感染するケースがほとんどだが、男性はこの10年間、海外には行っていないという。中村さんは「たぶん無鉤条虫だろう」と思いながらも、引っかかるものを感じていた。
 治療では、駆虫剤のプラジカンテルと下剤を投与。数時間後、長さ1メートルほどの寄生虫が、便とともに排出された。中村さんは遺伝子検査で種類を特定するため、国立感染症研究所 に寄生虫を送った。「その時は、アジア条虫だとは思いもしなかった」と振り返る。20110531kao1.jpg
 ▽全長6メートル
 同研究所寄生動物部の山崎浩室長は、念のため検査を2度繰り返した。結果は2度ともアジア条虫。「驚いた。日本にアジア条虫はいないと認識していたから」。100例を超える自身のサナダムシ鑑定でも初めての経験だった。
 だが、驚きはまだ続いた。7月上旬、栃木県の独協医大から持ち込まれた寄生虫もアジア条虫と判明。その後も確認が相次ぎ、今年2月までに群馬、栃木、埼玉、東京、神奈川、千葉で計15人もの患者が見つかった。
 山崎さんによると、アジア条虫は韓国、中国、台湾、フィリピン、インドネシア、タイ、ベトナムに分布。幼虫は主に豚の肝臓に寄生し、レバー刺しなどを食べることで感染する。幼虫は人の小腸内で成長し、2~3カ月後に成虫となる。成虫の体は頭部と、それに連なる千個ほどの「片節」から成り、全長3~6メートルに達することもある。片節は末端から次々にちぎれ、便と一緒に排出されたり、自力で肛門からはい出してきたりする。20110531honki.gif
 ▽不快感
 実は、アジア条虫に感染しても腹痛や下痢などの消化器症状は見られない。最大の健康被害は、毎日のように続く片節の排出や、時と場所を選ばずに片節がもぞもぞとはい出してくることによる不快感だという。
 片節にはぎっしりと卵が詰まっている。この卵を豚が経口摂取すると、肝臓で幼虫に成長し、再び人への感染源となる。
 患者の記憶が不明確なケースもあるが、15人の患者の大半が豚レバーを生食していた。患者に流行地への渡航歴が無いことや、短期間に限られた地域で患者が発生していることなどから、山崎さんは「関東地方のと畜場で食肉処理された国産豚が感染源となった可能性が高い」と指摘する。
 しかし、感染から発症までの期間が長いことなどが壁となり、原因食材は特定されていない。もしも養豚業者の周辺に、豚と人の間で感染が繰り返される環境が成立していたら、今後も新たな患者が現れる恐れがある。「発生動向を監視するとともに、肉やレバーの生食を避ける感染予防策を周知徹底する必要がある」と山崎さんは話している。(共同通信 赤坂達也)