今週のニュース
2010.04.06
統合失調症、早めに治療
新手法で前駆期とらえ
東大病院が試み
統合失調症のわずかな前駆症状をとらえることで、早期の治療を可能にしようという試みを、東京大病院 精神神経科の笠井清登教授らのチームが始めた。治療開始が早ければ薬物療法や認知療法の効果が高く、再発のリスクも少ないと期待される。笠井教授は「将来的には発症予防につなげるのが目標だ」と話す。
▽脳組織に変化
統合失調症は、妄想や幻聴に加え、感情がにぶったり意欲が低下したりする精神疾患。人口の約1%がかかり、大半が思春期から青年期に発症する。原因は不明だが、複数の遺伝子が病気の素地をつくり、ストレスが引き金となって発症することが多いとみられる。
抗ドーパミン薬などで一部の症状は緩和するが、元通りの生活が送れるようになるまで回復させるのが難しいケースも少なくない。
脳組織の変化については長く謎だったが1990年代以降、多くのことが分かってきた。
磁気共鳴画像装置(MRI)で患者の脳を調べると、神経細胞の細胞体が多く集まる大脳の「灰白質」が、健康な人に比べて萎縮していた。特に前頭葉と側頭葉で程度が著しかった。笠井教授らも患者13人の脳を調べ、1年半後に灰白質の体積が数%減少しているのを確認。同じ患者でも症状に伴って萎縮が進行していた。
▽不安や知覚過敏
統合失調症患者の多くは、発症に先立って不安や知覚過敏といったごく弱い症状を示す。こうした段階は「前駆期」と呼ばれ、20%が1年後までに、35%が2年半後までに発症するという。
2005年には、発症から治療開始までの「未治療期間」が長ければ長いほど、薬が効きにくく、治療が困難になることが欧米の研究で示された。日本の患者の平均的な未治療期間は約1年だが、欧州では地域ぐるみの啓発で3~4週間に短縮した例もある。
笠井教授は「前駆期は脳の萎縮が始まる時期と重なっている可能性がある。これをとらえて治療開始時期を早めることができれば、より多くの患者を救うことができる」と話す。
東大病院精神神経科が08年に開設した「こころのリスク外来」は、こうした前駆期の人を見つけるのが狙いの一つだ。
自分の精神状態に不安を感じた人から相談を受け、病気の可能性があれば診療を受けてもらう。ホームページには幻聴の有無など11項目のチェックリストを掲載し、相談前に試すことができる。
▽光トポグラフィー
前駆期の症状は時に消えてしまうため、カウンセリングなど従来の手法だけでは、発症リスクを見極めるのが難しい。このため笠井教授らは、脳を傷つけずに神経活動の変化を知ることができる「光トポグラフィー検査」を使った研究を進めている。
検査では、ヘルメット状の装置から頭部表面に照射した近赤外線の反射の度合いから、脳活動に伴う血流の変化を測定する。東大病院の患者十数人に装置を付けてもらい、簡単な言語テストを実施したところ、テスト時の血流変化が健康な人に比べて鈍いなど、患者には特徴的なパターンがあることが分かってきた。
これにMRIや血液検査、遺伝子検査などの新手法を組み合わせることで、リスクをより正確に見積もることができるのではないかという。
笠井教授は「脳の萎縮を防ぐ薬が将来開発されれば、前駆期の人に投与して発症を予防するという、これまで不可能だった治療に道が開けるかもしれない」と話す。(共同通信 吉村敬介)(2010/4/6)
▽脳組織に変化
統合失調症は、妄想や幻聴に加え、感情がにぶったり意欲が低下したりする精神疾患。人口の約1%がかかり、大半が思春期から青年期に発症する。原因は不明だが、複数の遺伝子が病気の素地をつくり、ストレスが引き金となって発症することが多いとみられる。

抗ドーパミン薬などで一部の症状は緩和するが、元通りの生活が送れるようになるまで回復させるのが難しいケースも少なくない。
脳組織の変化については長く謎だったが1990年代以降、多くのことが分かってきた。
磁気共鳴画像装置(MRI)で患者の脳を調べると、神経細胞の細胞体が多く集まる大脳の「灰白質」が、健康な人に比べて萎縮していた。特に前頭葉と側頭葉で程度が著しかった。笠井教授らも患者13人の脳を調べ、1年半後に灰白質の体積が数%減少しているのを確認。同じ患者でも症状に伴って萎縮が進行していた。
▽不安や知覚過敏
統合失調症患者の多くは、発症に先立って不安や知覚過敏といったごく弱い症状を示す。こうした段階は「前駆期」と呼ばれ、20%が1年後までに、35%が2年半後までに発症するという。
2005年には、発症から治療開始までの「未治療期間」が長ければ長いほど、薬が効きにくく、治療が困難になることが欧米の研究で示された。日本の患者の平均的な未治療期間は約1年だが、欧州では地域ぐるみの啓発で3~4週間に短縮した例もある。
笠井教授は「前駆期は脳の萎縮が始まる時期と重なっている可能性がある。これをとらえて治療開始時期を早めることができれば、より多くの患者を救うことができる」と話す。
東大病院精神神経科が08年に開設した「こころのリスク外来」は、こうした前駆期の人を見つけるのが狙いの一つだ。
自分の精神状態に不安を感じた人から相談を受け、病気の可能性があれば診療を受けてもらう。ホームページには幻聴の有無など11項目のチェックリストを掲載し、相談前に試すことができる。
▽光トポグラフィー
前駆期の症状は時に消えてしまうため、カウンセリングなど従来の手法だけでは、発症リスクを見極めるのが難しい。このため笠井教授らは、脳を傷つけずに神経活動の変化を知ることができる「光トポグラフィー検査」を使った研究を進めている。

検査では、ヘルメット状の装置から頭部表面に照射した近赤外線の反射の度合いから、脳活動に伴う血流の変化を測定する。東大病院の患者十数人に装置を付けてもらい、簡単な言語テストを実施したところ、テスト時の血流変化が健康な人に比べて鈍いなど、患者には特徴的なパターンがあることが分かってきた。
これにMRIや血液検査、遺伝子検査などの新手法を組み合わせることで、リスクをより正確に見積もることができるのではないかという。
笠井教授は「脳の萎縮を防ぐ薬が将来開発されれば、前駆期の人に投与して発症を予防するという、これまで不可能だった治療に道が開けるかもしれない」と話す。(共同通信 吉村敬介)(2010/4/6)


