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明晴学園理事の玉田さとみさん

聞こえない子の言葉で教育を 手話で学ぶろう学校設立

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   明晴学園理事の玉田さとみさん

 東京都品川区の私立「明晴学園」は2008年4月、耳が聞こえない子を持つ親たちによって設立された、全国で初めての「手話で教える」ろう学校だ。全国初という言葉に驚く人も多いのではないだろうか。同学園理事の玉田さとみさん(49)は「手話を使わず、クチパクで授業をする従来の日本のろう教育では聞こえない子どもの能力は伸ばせない。全国どこにいても、ろう者が手話で教育を受けられるようにしてほしい」と訴えている。

 ▽わが子と話したい
 次男の宙(ひろ)くん(13)の耳が聞こえないと診断されたのは1999年。当時、宙くんは1歳9カ月。生まれた時から目が印象的で、表情豊かな子どもだったという。
 「聞こえないというのは、どういうことなのか、想像すらできず、不安で混乱していました。ただ一つの願いは、宙と話したい、ということでした」

 ろう者とのコミュニケーションの方法として、真っ先に頭に浮かんだのは手話。しかし、手話サークルを紹介してもらおうと、訪ねたろう学校で聞かされたのは、意外にも、手話に否定的な意見だった。
 「『手話を覚えると、聴覚口話法が獲得しづらくなる』と言われました。聴覚口話法は、相手の口の動きを読み取り、それを真似た発音の訓練をすることで、聞こえる人と同じ日本語の習得を目指すものです。日本のろう学校では約70年前に手話による授業を禁止して以降、この口話法が、教育の基本になっていることを知りました」

 実際に口話法で行われる授業を見学すると、さらに驚いたという。
 「算数の授業では『りんごが3個あります。1個食べたら残りはいくつ?』という引き算の問題で『り・ん・ご』の発音練習にほとんどの時間を使っていました。口話法で口の動きを読むと言っても、たとえば『ごみ』と『コピー』の口の動きは同じ。授業の内容をすべて理解できるとは思えません。休み時間には子ども同士、手話で活発に会話をしているのに、なぜ授業で彼らの『母語』を使わないのか。この教育で必要な学力が身に着くのか、疑問を持ちました」

 ▽手話で教育を
 手話を教えてくれる家庭教師を探す一方、インターネットで情報をかき集め、同じように、日本のろう教育に疑問を持つろう者やその親たちと出会った。
 「『手話を使わないよう手を縛られた』『先生の言っていることは半分も分からなかった』など、ろう学校での体験談に、ショックを受けました。口話法の習得は、聞こえる人とのコミュニケーションが狙いですが、仮に訓練の結果、きれいに発音できるようになったとしても聞こえないことに変わりありません。それが周囲に理解されず、トラブルになるケースがあることも知りました」

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 明晴学園の授業風景。互いの手話が見えるよう、席は半円形に並べている=東京都品川区(明晴学園提供)

 2000年に「全国ろう児をもつ親の会」を設立。既に都内で、手話で学ぶフリースクール「龍の子学園」を立ち上げていた20代のろう者たちとも連携しながら、手話によるろう教育の実現を求める活動を始めた。
 「少なくとも、人間形成の時期である義務教育の間は、子どもがしっかりと分かる言語で学ぶ必要があると訴えましたが、なかなか聞き入られませんでした。次第に、自分たちで学校をつくるしかないと考えるようになりました」

 ▽念願かなって
 東京都の教育特区として、手話で教える学校の創立が認められたのは07年。いくつもの壁を乗り越え、8年越しでかなえた夢だった。翌年4月、品川区の廃校になった校舎を活用し、龍の子学園のスタッフを教員として引き継ぐ形で、明晴学園が開校。ろう学校を「不登校」になり、龍の子学園に通っていた宙くんも、晴れて5年生に入学した。
 「明晴学園に見学に来た人にいつも驚かれるのは、子どもたちの集中力の高さです。ろう者にはもともと聞こえない耳を補って余りある目の力があります。聞こえない子どもたちの本当の力を、多くの人に知ってほしい」

 現在、宙くんは明晴学園中学部に通学。小さい時から筆談やジェスチャーで誰とでも話せる人懐っこい性格で、大好きな野球を続けるため、一般の高校への進学を目指している。
 



玉田さとみ(たまだ・さとみ)さん の略歴

 1962年東京都生まれ。ラジオ番組のキャスターを経て放送作家。95年に長男海士(かいと)くん、98年に次男宙(ひろ)くんが誕生。2000年「全国ろう児を持つ親の会」を設立。03年、フリースクール「龍の子学園」のNPO法人化を支援。08年4月、東京都の教育特区として学校法人明晴学園を創設。現在、同学園理事。著書に「小指のおかあさん」。


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