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子育てさがし 共同通信がママ・パパ・家族をつづった子育て物語です。

日本ベビーダンス協会の田中由美子さん

親子で運動、きずな深め 家庭生活の助けに

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田中由美子さん=東京都港区

 赤ちゃんを抱っこした親が音楽に合わせてステップを踏みながら体を動かす「ベビーダンス」が各地に広がりつつある。一般社団法人「日本ベビーダンス協会」代表理事の田中由美子さん(34)が考案。親子が一緒に体を動かすことで、子育てのストレスや負担が減って幸せな家庭生活の助けになればと考えている。

 ▽偶然から考案
 6歳年上の姉の影響を受け、中学生からダンスを始め、社交ダンスにのめり込んだ。19歳からプロになり、日本でトップクラスにあたるA級にも昇格。国内だけでなく全英選手権など海外の大会にも多数出場した。結婚後もダンスを続けていたが、2006年9月に長女空羽さん(3)を出産。ダンスの仕事を休み、育児に専念したが、毎日が同じことの繰り返しでストレスがたまっていった。
 「母親としてやる気満々だったのですけど、子どもと一緒では近くのスーパーに買い物や、公園に散歩くらいしか外出できない。だから日常とは別の予定があると待ち遠しかったです。夫の仕事は泊まり勤務があるので、どうしてもわたしの負担が多くて、なかなか一人で外出することもできなかったですね」

 ある日、思い切って夫に空羽さんの世話を頼み、数時間出かけた。自宅に戻ると、社交ダンス初心者の夫が生後約6カ月だった空羽さんを抱っこして、ダンスビデオを見ながらステップを踏んでいた。空羽さんは気持ち良さそうに寝ていた。
 「これだ!と思いました。産後の母親が赤ちゃんと一緒に育児ストレスや運動不足の解消ができて、赤ちゃんもご機嫌ならいいことずくめ。すぐに赤ちゃんを抱っこしながらできる運動教室を開講することにしました」

 07年春から始まったベビーダンスは首が据わった赤ちゃんから2歳前後までが対象。親が赤ちゃんを抱っこすることで一体感を感じる。ともに動く中できずなを深め、有酸素運動により母親の産後うつの予防など、親子の心身の健康に役立てるのが目的だ。場所にもよるが、教室に参加するための入会金はなく、1回の受講料は1000―2000円。
 神奈川県で始まった活動は、09年には「日本ベビーダンス協会」として一般社団法人化し、インストラクターの養成も始めた。北海道から岩手、千葉、名古屋、大阪、兵庫などで約30人が資格を取って各地で教室を開いている。高齢者施設でダンスを披露するなどボランティア活動にも力を入れる。今後は「抱っこ」を卒業した後も親子で一緒にできるなど、多様なプログラムを検討中だ。
 「運動にかかわる従来の産後プログラムは、赤ちゃんを床に置いたり、預けたりしなければ参加できませんでしたが、ベビーダンスは抱っこしながら一緒に運動するのが特徴です。泣きやませたり、寝かしつける時の毎日の抱っこは、重くてつらいというイメージになりがちですが、一緒に運動することでいいイメージに変えることができます」

 ▽母親の経験プラス
 3月初めに神奈川県厚木市で開かれた教室には、14組の親子が参加。マットの上に子どもを寝かして、歌でリズムを取る。マッサージをしたりくすぐったりすることから始まり、抱っこひもで子どもを抱っこする。この日はサンバの曲で、ひざを軽く屈伸してリズムを取りながら、横、前後、斜めにステップを踏む。1時間ほどの運動だが、軽く汗をかく母親もいた。教室の後は顔見知り同士が「保育園が決まったよ」など近況を話し合ったり、子育て情報の交換をしていた。
 1歳半の男児と参加した専業主婦は「1回ごとの料金なので気軽に行ける。子どもが家でぐずった時には、抱っこして歌いながらリズムを取れば、子どもも落ち着くし、自分のイライラもなくなるので役立ちます」
 ほかの育休中の母親は「ふさぎ込みがちになる育児で、体を動かすことで精神的に安定する。ほかのお母さんとも話せるのでリフレッシュにもなる。子どもも家で2人きりだとよく泣くけど、ここに来ると落ち着くのかまったく泣かないです」。「ベビーダンスで体を動かすことで、母親のストレスが少しでも解消されれば、家族円満、幸せな家庭生活につながる。それはわたしの悲願でもあります」と田中さん。

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子どもを抱っこしながら一緒に運動するベビーダンスの教室=神奈川県厚木市

 現在、空羽さんを保育園に預けて仕事をしているが、2歳ごろまでは、ずっと一緒にベビーダンスをしてきた。家では子どもの自然な姿としてぐずることもあったが、仕事では、ぐずって困ることは一度もなかった。
 「ベビーダンスの仕事は、母親の経験がプラスになります。ダンスを通して子どもとの一体感が感じられて育児が楽しくなれば、親として成長できる。娘にとっても、母と一緒に仕事できる喜びがあったのかもしれません」
 「育児支援というと保育所増設や現金支給に多くの話題が集中していますが、子どもを預けられるから、お金をもらえるから、子どもを産むのではなく、育児を心から楽しいと思えた結果として、次の子も産もうと思うのではないでしょうか」

 ▽恩返し
 田中さんは小学生の時に両親が離婚。母親、姉と一緒に暮らしていたが、中学生の時に母親をなくし、姉が保護者として守ってくれた。ダンスが続けられたのも後にプロダンサーになった姉のおかげだが、高校時代に「お姉さんが保護者なんておかしい」と先生に言われるなど、悲しい思いをたくさんした。
 家庭の不和から安定した生活を送れなかったので、大人に頼りたいけど、大人から傷つけられたことで不信感もあった。プロになった当初は、ダンスの試合に勝つことで、経済的な心配もなく育った人たちを見返したい、と思っていた。しかし優勝を重ねても心は満たされず、人間は勝ち負けでは幸せになれないことに気付いた。
 「今は愛する家族があり、そこからうまれたベビーダンスで社会に笑顔の輪を広げるのが夢です。家族を大事にしながら、何か人や世の中のためになることをしていくことで、自分が子ども時代に味わった悲しみが癒え、心が満たされているのを感じています」
 「だから自分を育ててくれたダンスの世界に恩返しをしたい。子育て中のダンス未経験の方でも、心から家族で楽しめるものを提供することで、ダンス愛好者の裾野を広げたい。それはわたしにしかできないことだと思っています」

 ベビーダンスを通して仕事をしながら空羽さんと2歳過ぎまで一緒にいたこともあり、今も一緒に体を動かして遊ぶことが多い。動く様子で気持ちが分かり、大事なコミュニケーションの手段になっている。
 「大事だと思うのは、子どもが親から無条件で愛されているという実感を持ってもらえるように行動や言葉で表すこと。子どもが愛されていると感じられる気持ちを大切にしています。本人のやりたい気持ちを尊重して、自主性をはぐくむように気をつけています」

 仕事が忙しく大変な時、思わず空羽さんに「ママ、お仕事辞めた方がいいかな」と弱音を漏らしたことがあった。「わたしもママみたいに大きくなってベビーダンスをやりたいから辞めないで」と返ってきた言葉は宝物。各地の教室を担当するインストラクターから送られてくる参加者の「楽しかった」という感想も勇気づけられる原動力だ。
 「娘を保育園に預けている間に、他のママや子どもと時間を共有しているので、娘が一番我慢しているかもしれないですね。各地の教室で多くの人が楽しんでもらえるのは何よりもうれしいこと。わたしの孫もできるよう、一時的な流行ではなく、長く愛されるようにこれからも工夫していきたいです」。ベビーダンスのキャラクターに、父親と母親、子ども3人のうさぎが一緒に踊っているイラストがある。幸せな家庭の助けになりたい思いを表現している。(共同通信デジタル編集部、10年3月23日配信)


 ▽田中さんの1日
 05:00 起床。メールチェックや弁当作り
 08:30 保育園へ見送り
 10:00 競技会に向けてダンスのトレーニング
 13:00 協会スタッフと打ち合わせ
 16:30 移動、パソコンで資料作り
 17:30 夕食の買い物と準備
 18:00 保育園へ迎え
 18:30 夕食
 19:00 空羽さんと遊ぶ
 20:00 入浴
 21:30 空羽さんに添い寝。そのまま就寝



田中由美子(たなか・ゆみこ)さんの略歴

 1975年、大阪府出身。中学生のころからダンスを始め、社交ダンスにのめりこみ、プロダンサーに。2006年に空羽(そらは)さんを出産、07年にベビーダンスを考案した。09年に一般社団法人「日本ベビーダンス協会」を設立、代表理事になる。


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