「ninps」を発行した高沖清乃さん
働くママの声生かし 育児の悩みや楽しさ表現

昨年12月に全7巻が発行された、働く妊婦向けの雑誌「ninps」は、ウェブコンテンツ製作会社「ポーラスタァ」の社長高沖清乃さん(35)が、長男(1)の妊娠をきっかけに企画した。0歳から小学生の子どもを育てるママとパパが、仕事への復帰にも役立つ情報を編集している。
▽契約、派遣、正社員
教育実習が始まると学費を稼ぐアルバイトができなくなるため、ほとんど単位を取得していた大学を3年で中退、アルバイト先のハンバーガーチェーンで契約社員として働いた。その後、建設会社の派遣社員の時、中退を後悔したことがあった。
「年齢が近い女の子が新卒で入社してきたころで、正社員と比べて仕事を任せてもらえなかったり、提案ができなかった。仕事以外のことでも職場の飲み会に呼んでもらえなかったりして、混ぜてもらえない寂しさ、物足りなさを感じました」
派遣社員を経て28歳の時、出版社で初めて正社員として中途採用された。その後、総合情報サイトを運営する会社で掲載テーマの企画などをする仕事に携わった。独立して編集やライターの仕事をしようと考え、2006年10月に同僚だった夫(33)ともに「ポーラスタァ」を設立した。
「正社員になるまではもらえなかった名刺やボーナスを初めていただいて、これでやっとみんなに並んで自由になったとうれしかったです。独立に際してはフリーになることも考えましたが、法人化した方が取引先と仕事をしやすく、1円起業など設立しやすい環境が整っていたので選びました」
以前は、「子どもはいらない」と友人に宣言していた。子どもはいらないと考える女性をテーマにした雑誌の特集で取材を受けたこともあった。
「正社員として仕事ができて楽しかったし、ずっと仕事は続けたかった。出産はこれまでの環境が激変すると思い込んでいて、振り返ると仕事と育児を両立する自信がなかったんだと思います」
起業して時間繰りが自分で判断できるようになった。2人の子どもがいる女性スタッフが生き生きと仕事をしているのを間近で見て「働きながら子育てができるかも」と思い始めた。08年1月に妊娠が分かって、雑誌やネットで情報を集め始めて気付いた。
「妊娠・出産に関することはたくさんあったが、仕事をする女性のための情報が少なく感じた。それで出産後も働くことを前提に考えている人のために、必要な情報を知ることができる書籍を責任持って作りたいと思うようになりました」
▽仕事は子どもの帰宅まで
自身の妊娠中に考えたことのほかに、どんな情報が必要か、悩みや不安を集めるため先行してホームページ「ニンプス」を08年10月に立ち上げた。09年1月から書籍化に向け動きだし、同年7月に「ninps」を創刊。全国の働くママたちの声をもとに、妊娠・出産期のことはもちろん、仕事への復帰、子育て、子どもを預けること、夫との関係、お金、自分…と幅広い情報が、妊娠4カ月から臨月の10カ月までの全7巻に掲載されている。高沖さんとスタッフの計5人のほか外部のライターで編集。全員が子育て中だ。
スタッフは3歳と1歳の子持ちの人、小学生の子がいる人ら。編集の経験はスタッフにはほとんどなかった。夜遅くまで仕事をするイメージがある編集だが、発刊まで午前10時から保育園や学童保育が終了する午後4時-6時までに帰宅する勤務体制にした。
「出版社勤務の時は、原稿の表現など、どちらでもいいことで悩んでいたような気がする。それもいいものを作るという意味では大事なんですけど。今は帰らないといけない時間が決まっているので、私もスタッフも集中して、決断をしやすくなっています」と高沖さん。
編集スタッフは「週に3、4日の勤務で家事の日ができるので、気持ちに余裕ができる」「派遣だと仕事が単純すぎて働いている気がしなかったので、やりがいを感じた」「仕事が面白くて、もうちょっとやりたいと思うこともありますが、家庭にしわ寄せがいくのはよくないし、バランスを取りながら仕事をしている」。ほぼ初めての仕事で慣れない苦労、子どもの迎えまでという時間の制約もあったが、親の経験も雑誌に活かせることで充実感が大きかったという。
子どもができてからは仕事上のお付き合いはなるべくランチにしてもらったり、原稿の修正の連絡が夜に来た時などもなるべく昼間に仕事をしてもらうよう要望している。
「どうしてもやらないといけない場合は夜でも仕事をしますが、こちらからそういう会社だというのを先方に伝えないといけないと考えています」

▽保育園決まらず
08年9月に生まれた長男の保育園探しには苦労した。自宅の壁に保育施設の大きな一覧表を作り、問い合わせをしては×が増えていった。30カ所以上あたったが、空いているのは高額か、施設の設備が古いなど親として大丈夫と思えるには程遠く感じるところ。ようやく決めたが、数カ月の新生児に保育士は慣れていない様子で不安は募った。
「預ける前日、肌着一枚一枚に付けた名札には、息子が泣いても保育士さんがイライラしないように、イラストをつけたりもしました。ああ、明日から預けるんだと思うと、何とも言えない悲しい気持ちになった。初日に、哺乳瓶がほかの子どもの荷物に紛れてしまって、息子の一部をなくされたような気がして泣きたくなったりもしました」
預けた後も葛藤が続いた。平日の昼間に親子連れを見かけると、どうしようもなく罪悪感が沸いてきた。「そこまで仕事をしたいか」という自分の根本的な部分まで揺さぶられた。安心を求めて別の保育園に移った後、家庭で子どもを預かる保育ママ制度を利用。昨年4月に会社近くの区立保育園に入ることができた。
「ようやく落ち着いてきました。待機児童など問題になっていますが、預ける親の心の揺れというか、不安を解消するという面も何とかならないかなと思います」
自宅から保育園まではバスで40-50分。休日以外にゆっくり長男と向かい合うことが少ないので、車内でのふれあいは平日の貴重な時間になる。「初めて園の庭に出て、花に興味を示していました」など保育園での長男の様子を伝える保育士からの手紙を読むのが1日の一番の楽しみだ。
「0-1歳は楽しい、おいしい、気持ちいいとか人間としての基本を作る時期だと思う。大人になって何かを判断する際の基本になると思うので、その感覚をたくさん、幅広く与えたいです」
ninpsは概略版を無料で全国の産院に配るほか、より身近な携帯版での情報提供も進めている。内容も改良を重ね、子育て編、復帰編など女性の仕事復帰までをフォローする予定だ。
「私は子どもを産んだら“ママ”になると思っていた。ママらしくならないといけないみたいな。でもスタッフはみんなそれぞれ趣味や個性があって育児のことを相談できる心強い先輩。みんなでアイデアを出し合い、読者と共有しながら、地に足をつけてやっていきたいです」。長男を迎えに行く時、心の中で一本締めをするのが仕事から頭を切り替える合図にしている。働く母親として、育児の楽しさ、悩みを「ninps」に等身大に表現する。(共同通信デジタル編集部、10年2月16日配信)
▽高沖さんの1日
07:00 起床
08:30 長男と家を出て、バスに乗って保育園へ
09:10 保育園到着、仕事の所用など
10:00 出社
12:00 夫と昼食。長男の様子や注意点などを共有
17:50 帰社し、保育園へ長男を迎えに。途中で買い物
19:30 帰宅
20:00 夕食
21:00 入浴。遅く帰った方が長男を風呂から受け取り、寝かしつける
22:00 自由時間。読書や残りの仕事など
24:00 就寝
高沖清乃(たかおき・きよの)さんの略歴
1974年、長野県生まれ。大学中退後、ハンバーガーチェーンの契約社員、派遣社員、出版社社員などを経験。2006年にウェブコンテンツ製作会社「ポーラスタァ」を設立し、09年に働く妊婦向けの雑誌「ninps」を発行した。高沖さんのブログはhttp://ameblo.jp/nalscenario-l/






