(177)「税」 中身を引き出し納めさせる
中国の思想家・孔子(こうし)の言葉を集めた「論語(ろんご)」の冒頭(ぼうとう)に「学びて時に之(これ)を習う。また説(よろこ)ばしからずや」とあります。「学ぶことを続け、つねに復習(ふくしゅう)する。そうして自分の身についているのは、何と愉快(ゆかい)なことではないか」という意味です。

この「論語」の「説」は「よろこぶ」意味です。今の日本人は「説明」など「とく」の意味に「説」を使います。「論語」では、なぜ「よろこぶ」意味なのか、今回はそのことの説明です。
「説」の旧字(きゅうじ)の右側「兌(えつ)」は「兄」の上に「八」がある形です。「兄」はお祭りの際(さい)、神への祈(いの)りの言葉を入れた器「口」(サイ)を頭上にのせている人の姿(すがた)です。その祖先(そせん)へのお祭りは「兄」の役目でした。そこから「兄」が「あに」の意味となったのです。
上の「八」は、その祝いの祈りに対して神が降(お)りてきて「口」(サイ)の上に神様の気配がただよっているさま。神の気配が乗り移(うつ)り、うっとりした状態で神に誓(ちか)いながら説く言葉が「説」です。神が乗り移っているので「よろこぶ」のです。
神様が乗り移るとうっとりとして、身も心も「脱落(だつらく)」した状態となります。「脱」の「月」は「肉づき」で身体のこと。身が脱落するので「ぬぐ」の意味となりました。
「身」が脱落した状態を表す字が「脱」ですし、「心」のほうが脱落している状態を表している文字が「悦(えつ)」です。心が脱落して、うっとりとしているので「よろこぶ」の意味となりました。
次に分かりやすいのが「蛻(ぜい)」。これは蛇(へび)や蝉(せみ)が外皮を脱落、脱皮したぬけがらのことです。
見方を変えると「兌」は身心脱落して、そのものの中身が引き出されている姿です。「蛻」も脱皮して中身が抜(ぬ)き出される状態でもあります。
そして「税」も中身を引き出す意味の漢字です。「禾(か)」は穀類(こくるい)のこと。収穫(しゅうかく)した米や粟(あわ)などの中から一部を引き出して納(おさ)めさせるのが「税」なのです。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

小山鉄郎(こやま・てつろう)1949年群馬県生まれ。共同通信社編集委員兼論説委員。白川静さんが理事長を務めていた国の認定NPO法人・文字文化研究所理事を2009年7月まで務めた。著書に白川静文字学をやさしく紹介した「白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい」「白川静さんに学ぶ漢字は怖い
」(いずれも共同通信社刊)などがある。
