(135)「博」 政令などを広く及ぼす
「専」に点がなく、「博」に点がある理由を説明するシリーズの最後です。前回は「博」に関係する「甫(ほ)」が苗木の根の部分を包んでいる字であることを紹介しました。

「博」の右の元の形はこの「甫」と「寸」を合わせた「
(ふ)」でした。「寸」は手のことで「
」は根を包んだ苗木を手に持ち、植樹する姿です。
古代の中国では王が諸侯(しょこう)に土地を分けあたえて、その地を治めさせる時、社(やしろ)に木を植える儀式(ぎしき)をしました。「
」もその植樹式に関係した字で、苗木を土に植えることから政令などを各地に広く及(およ)ぼす意味となり、「しく」「あまねし」「ひろい」の意味があります。
「博」に「ひろい」の意味があるのは、このためです。左の「十」は武器の「干(たて)」のことで、「干」で「うつ」意味だと白川静さんは考えています。
さてこの「
」をふくむ字はかなりあります。「縛(ばく)」もその一つ。「
」は若木の根を包みこむことで、「縛」は木の根を糸で縛(しば)ること。人を縛る意味にもなりました。
また「敷(ふ)」の左下は「方」ですが、古代文字は「寸」の形で「
」と同じ字。右の「攵(ぼく)」の元の形「攴」は「ト」(木の枝)を「又(ゆう)」(手)で持ち、何かをうつ字です。
つまり若木を植えこむときに、土をうち固めることを「敷(し)く」と言います。さらに政令などを敷く意味にも使います。
植樹の際に、うち固めるので「
」には「うすい」意味もあって、「薄(はく)」はその意味の字です。
「薄」に似た「簿(ぼ)」の「
」も「うすい」の意味です。竹の札の薄(うす)いものが「簿」。薄く細長い竹に文字を書き、つづったのが「帳簿」です。
最後に復習です。「専」は袋(ふくろ)の中のものを手でうち固める字で「伝」(傳)「団」(團)「転」(轉)に「丸い、転がる」意味がふくまれています。「
」は苗木の植樹式に関係した字で「博い、縛る、薄い」などの意味がふくまれています。ぜひ違いを覚えておいてください。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

小山鉄郎(こやま・てつろう)1949年群馬県生まれ。共同通信社編集委員兼論説委員。白川静さんが理事長を務めていた国の認定NPO法人・文字文化研究所理事を2009年7月まで務めた。著書に白川静文字学をやさしく紹介した「白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい」「白川静さんに学ぶ漢字は怖い
」(いずれも共同通信社刊)などがある。
